キミと桜を両手に持つ
もう、藤堂さんから柔軟剤の匂いなんてしないじゃないの!でも一体どうして一緒に暮らしてる事バレたんだろう……?
「柔軟剤?」
藤堂さんは怪訝そうに私を振り返った。
「……い、いえ、なんでもありません」
そう答えると藤堂さんはいきなりふいっと私から目を逸らした。
「前田さん、彼女がいるよ」
「えっ?知ってますよ。紗綾香さんですよね」
それに結婚していて(もしかしたら離婚してるかもしれないけど)女の子が二人いる。
「あの人ああ見えて気が若いから、若い子に手を出す癖がある。気をつけたほうがいい」
「前田さんは私のことそういう風には見てませんよ。それに私そんなに若くはありませんから」
藤堂さんのわけのわからない心配に思わずクスクス笑った。
「そうかな。前田さんは随分凛桜の事、気に入ってるように見えるけど」
彼は何か言いたい事を飲み込むようにぎゅっと目を閉じた。彼の綺麗な横顔をじっと見ていると再び目を開けた彼と視線がぶつかる。でもその眼差しが何故かいつもと違う雰囲気で目が離せない。
「……凛桜」
彼の大きな手が私の顔にそっと伸びてくる。でもその指が肌に触れる前にポーンとエレベーターのドアが開いた。彼はさっと手を引っ込めてぎゅっと拳を握るとエレベーターを出て歩き出した。
な、何を言いたかったんだろう……?
疑問符を浮かべながら彼の横を歩いているとビルの入り口で私たちを待っている詩乃さんが手を振った。
今日はこれから詩乃さんがとってきた新規のお客様でFortunaと言う結婚相談所のところへ行くことになっている。オフィスは新宿にあって三人で電車に乗って向かった。
「ねえ、一樹兄さんとの暮らしはどう?うまくいってる?」
隣同士で座っている詩乃さんは、電車の中ですこし離れたところで立っている藤堂さんをチラリと見た。