キミと桜を両手に持つ
「うまくいってるというか、藤堂さんすごく気を使って色々としてくれるからなんだか申し訳なくって。私がいる事で逆に家に帰ってもゆっくりできないんじゃないかと心配になる時があって……」
それを聞いた詩乃さんはクスクス笑い出した。
「凛桜さんの面倒を見たくてしょうがないのね。好きなだけやらせておけばいいのよ。どうせ好きでやってるんだから」
「藤堂さんって人の面倒を見るのが好きなんですか?」
「そうねぇ。どちらかと言うと誰かの面倒を見たりするよりは一人で過ごす方が好きなんだけど、でも凛桜さんは特別ね。構いたくてしょうがなくてあれこれ世話を焼いてしまうのね。でもなかなか一歩踏み出すタイミングがわからなくて色々と我慢してるってところかしら」
「えっ?」
「一樹兄さんってあの通り無愛想だし口下手でしょう?それで凛桜さんを傷つけるんじゃないかとグズグズと悩んでるのよ。それか同じ過ちを繰り返さないようにしようとしてるのか……」
詩乃さんはそう言うと少し考え込んでしまった。詩乃さんのその言葉に先程前田さんから聞いた話を思い出す。本当は花園さんの事を聞きたいけど、それは何か違う気がする。でもどうしても気になって違うアングルから尋ねてみた。
「あの、今藤堂さんが持っているマンションってすごく大きいじゃないですか。あれって投資の為に買ったんでしょうか?」
詩乃さんは顔を上げるとスッと真面目な顔になった。
「……あのね、凛桜さん、もしかして誰かから聞いたかもしれないけど──…」
その時、丁度目的地の駅に到着したアナウンスが流れてきた。藤堂さんが私達に目で合図を送り、私と詩乃さんは慌てて電車から降りて彼の後に続いた。