キミと桜を両手に持つ

 「実は期間限定というかちょっと試験的に行っている婚活パーティーなんですけど、これがすごくヒットしてるんです」

 琴森さんはふふっと嬉しそうに笑った。

 「エリート男性の中には、なかなか女性とうまく話せないという方が結構いらっしゃるんですね。例えばネットアーチさんのようなIT企業で働いているエンジニアの男性など、女性と話すのが苦手だったりする方がいらっしゃいます。普通の立食パーティーだとなかなか自ら女性に近寄ってお話しするのが難しい方がいらっしゃったり、限られた時間内で一対一でテーブルに座ってお話しすると緊張してなかなか思うように自分をアピールできない男性が多くいらっしゃるんです」

 そう言われて新しい制作部のメンバーになった遠坂くんを急に思い浮かべる。彼は凄腕のプログラマーだけどたぶん女性と、というか男性とでも会話をするのが苦手そう。

 「そういう男性の、または女性のために試験的に用意したのがこの脱出ゲームなんです。一緒に謎を解いてお互いを知ってもらう、そういう企画を作ってみたんです」

 「この脱出ゲームってどんなゲームなんですか?」

 急にこのゲームの内容が気になって尋ねる。すると隣で藤堂さんが「エスケープルームだな」と呟いた。

 「エスケープルーム?」

 「ああ。アメリカではエスケープルームと言って、ネットアーチの本社でもチームの団結力をはかる為に時々遊びも兼ねてこのゲームに参加してるんだ。何人かのチームで部屋に閉じ込められて、決まった時間内に皆で協力して謎を解いて部屋を脱出するゲームだよ」

 「すごく楽しそうですね!」

 婚活のことよりも何よりも急にこのゲームに興味が湧いてしまう。

 「藤堂さんは経験されたことがあるんですか?」

 と琴森さんが尋ねる。
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