キミと桜を両手に持つ
早速スーツケースの中身を見ようとすると、彼に抱きしめられていて身動きできない。どうしたんだろうと思って顔を上げると、彼の優しい瞳とぶつかった。
「早くしないと脱出できなくなりますよ……?」
怪訝な顔をすると、彼はゲームには全く興味なさそうに私だけを見つめる。
「凛桜、俺とこうして一緒に過ごすの楽しい?」
「もちろんです。藤堂さんと過ごす時はいつだって楽しいです」
彼は私の顔にかかった髪の毛を指でそっとはらうと嬉しそうに微笑んだ。
「俺も凛桜と一緒にいる時はすごく楽しいよ」
彼の指が頬から唇に滑り落ち、熱っぽく私の唇をしばし見つめる。藤堂さんはふっと微笑んで腕を解くと私をそっと放した。
二人でスーツケースの中を見てみると、そこには50個近い鍵が入っている。大量の鍵を前に私は再び頭を抱えた。
あーもうわかんない!どれがどの鍵なの!?本当にこの謎を解いてここから制限時間内に出れるの!?
藤堂さんはクスクス笑うと私の背後に立った。
「よく見てごらん。一つだけ他とは違う鍵がある。他の鍵はブロンズ色なのにこれだけはシルバーだろ?」
あ、本当だ……
パニックに陥ってる時って判断力に欠けるのね。それに藤堂さんはさっきから無駄に変な色気を出してくるしきっと気が散って集中できてないのかも。
「凛桜、もっと真剣に解かないとここからいつまでたっても出れない。それともずっとここに二人だけでいたい?」
彼は背後から私の体に腕を回すと、低くて艶のある声で再び色っぽく私の耳に囁いた。フォルトゥナに行ったあの日から藤堂さんはまるで私が彼のものだと主張するかのようにこうして距離を詰めてくる。
「そ、そういうわけじゃ……」
再び彼との雰囲気が甘美で扇情的になってくる。藤堂さんはさっきからずっとこんな調子でこのゲームを解く気があるのかさっぱりわからない。