キミと桜を両手に持つ
「お、お願いです。ふざけてないで真面目にしてください」
「俺はいたって真面目だけど……?」
「さっきから私で遊んでばかりじゃないですか」
先程から仲のいいルームメイトとふざけ合ってるというよりはなんだか仲の良い恋人同士がふざけ合ってるような気がする。
「これは婚活用のイベントだろ?だからその雰囲気を出そうと真面目に取り組んでるだけだ」
「婚活パーティーで今まで面識のなかった口下手な男女がいきなりここまでの雰囲気にはなりません!」
気のせいか彼の親指が私の腰のくびれを確かめるかのようにゆっくりと撫でている気がして肌が粟立ってくる。
「じゃあ、凛桜。もし恋人同士がこんな薄暗い密室に二人きりになったら何をすると思う?」
彼の雰囲気が急に危険なほど蠱惑的になり、心臓が信じられないほどドキドキと早鐘をうつ。
「し、知りません……」
そんなの、キ、キスとかあんな事やこんな事など色々あるに決まってる。でもそれを口にすると、とんでもない事が起こりそうで怖い。
「本当にわからない?」
彼の顔が徐々に近づいてきて吐息が顔をくすぐる。私が少しでも顔を上げたらキスできそうな距離で息もできない。
自分の胸元を見下ろすとドクドクと心臓が速い鼓動を叩いているのが見える。このままだときっと心臓破裂して死んじゃう──…
「と、藤堂さん、待って、わたし……」
必死に押しのけて距離を作ろうとすると逆に両手首を掴まれてしまい、彼の長くて綺麗な指が私の指にするりと絡まって壁に縫い付けられた。
ひときわ大きくドクンと心臓が鼓動を叩き、震える声で小さく彼の名前を囁く。彼に指も手も体も心も全て絡め取られている気がして身動き一つできない。