キミと桜を両手に持つ
「もう、香澄ちゃんはなにもしなくても可愛いんだっていつも言ってるじゃん!仕事も丁寧だし服装だってTPOがしっかりしてるしすごく好感がもてるよ。それに目が大きくてキラキラして綺麗だし、チャラい男が寄ってくると言うよりは大人のしっかりした男性に好かれるタイプだよ」
「そうかな……」
同僚らしき黒澤さんは自信なさげな花園さんを勇気づけるようにそう言った。
なるほど……。真面目で、健気で、謙虚で皆に好かれている。そして彼女には適度な隙がある。小さくて華奢で藤堂さんみたいな男性は彼女のような可愛らしい女性をそばに置いて守ってあげたいと思っただろう。
前田さんの言った意味がよくわかる気がする。彼女は簡単に言うと私とは全く違う、皆が思わず守ってあげたくなるようなそんな可愛らしい女性だ。
「ええ、私も花園さんはとても可愛らしくてお仕事もがんばっていらっしゃる素敵な女性だと思います」
沈む心になんとか喝をいれて彼女に微笑むと、PCを閉じて資料と共にバッグの中にいれた。そして花梨ちゃんと遠坂くんに目で合図をすると席から立ち上がった。
「本日はありがとうございました。では今日いただいた資料を元にスケジュールやデザイン構成を検討して、改めてご連絡いたします」
「はい、よろしくお願いします」
私たちはお互いに深々とお辞儀をすると会議室を後にした。
✿✿✿
「じゃ、俺はこれで帰ります」
「ありがとう。ごめんね、今日は金曜日で自宅勤務だったのにわざわざ来てもらって」
「大丈夫です。それじゃ」
「お疲れ様」
「如月さん、私はちょっとトイレに行ってきていいですか?」
「うん、もちろん。ここで待ってる」
会議室を出て一階まで来ると遠坂くんはさっさと去っていき、花梨ちゃんはエントランス横のトイレへ消えた。私は待合用のベンチを見つけるとそこに腰をかけて待つことにした。