キミと桜を両手に持つ
一階のロビーにはモデルさんが彼らのブランドの洋服を着ている大きなポスターが飾られている他、次シーズンの洋服が秋らしい飾り付けのある壁に数着ディスプレイされている。
その秋シーズンの洋服のコーデが可愛いなと思って見ていると、2階から花園さんが私を追ってくるのが見えた。ずっと走って追ってきたのか、息を弾ませて私のところまでやって来た。
「如月さん、あの、藤堂さんはアメリカからお戻りでしょうか?」
急に前田さんの言った言葉を思い出す。
──彼女は藤堂さんの事を聞いてくる──
「はい。藤堂は今弊社オフィスで働いています」
「えっ、いつからですか?」
彼女は少し驚いた顔をした。
「この春からです」
それを聞いた彼女は急に真剣な面持ちになった。
「あの、彼とお会いする事は可能でしょうか?」
「藤堂ですが、ただいま出張中でして。何かウェブサイトに関する事でしたら私が今お伺いしましょうか?」
仕事のことなどではないと分かりつつも彼女にそう尋ねた。すると案の定「いえ、実は個人的な事で…」と彼女は言葉を濁した。
「……わかりました。では藤堂には伝えておきます」
「あ、ありがとうございます!」
そう言って顔を上げた彼女を見て私は息をのんだ。
目を潤ませて縋るように私を見る彼女は少女のような儚さと脆さを前面に押し出している。黒澤さんが言うように目がキラキラしていて男でなくても女の私でさえ抱きしめて守ってあげたくなる。
「どうしたんですか?」
花園さんと入れ替わりに戻ってきた花梨ちゃんは首を傾げながら去っていく花園さんを見た。
「花園さん、藤堂さんと話がしたいみたい。なんだか個人的な話みたいなんだけど、彼が昔ここのサイトの担当をしてたからその時の事でも話したいのかも」
「へー。そうなんですね」
と花梨ちゃんは2階へと上がる花園さんをじっと見つめた。