キミと桜を両手に持つ

 「俺はこういう口下手で無愛想な男だから誰も幸せに出来ないんじゃないかって思った。もしこれから先新しい恋をしても同じような結果になるんじゃないかって、そう思うとそんな自分に嫌気がさしたしすごくショックだった」

 彼は当時を思い出しているのか宙をじっと見つめたままで、その顔には苦悩が浮かび上がっている。

 「本当はもっと早く別れるべきだったんだ。でも彼女がどう反応するかって……壊れてしまうんじゃないかって、そう思うと怖くてどうしたらいいかわからなかった。あの時どうしたら一番良かったのか今でもよくわからない」

 彼は遠くを見つめたままそうポツリと呟いた。私は彼の腕の中で体の向きを変えて向き合うと、彼をぎゅっと抱きしめた。

 「それは絶対に藤堂さんのせいじゃありません」

 もし私が彼の悲しみを取り除けるものなら全てを取り除いてあげたい。

 「藤堂さんは無愛想でも口下手でもありません。そりゃ私も仕事モードの藤堂さんしか知らなかった時はあまり冗談も言わないしちょっと冷たい人なのかなと思った時もあったけど、でも藤堂さんの事を知れば知るほど本当はすごく優しい人だって、すごく楽しい人なんだって分かってきて……」

 彼は思いやりもあって気遣いもできる。恋人だったら絶対に幸せにしようと大切にしたはず。

 「そもそも、愛してるとかそんな甘い言葉なんて誰でも言えます。でも藤堂さんはその気持ちをいつも態度で示してくれる。私はその方が言葉よりも何倍も難しいと思います。藤堂さんが例え何も言わなかったとしても、私には十分その気持ちは伝わってますよ」
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