キミと桜を両手に持つ
「よくあの桜並木の下を一緒に歩きながら買い物に行ったよな。アメリカに赴任してた頃、夏や冬に日本に帰って来ることはあっても、桜が咲く季節には帰ってきたことがなくて、久しぶりに見る桜がとても綺麗だと思った。
あの頃はまだ凛桜の事をよく知らなかったけど、でもあの綺麗な桜並木の下を毎日楽しそうに話しながら歩く君を見て、何としてでも手に入れたいと思った。強くていつも前向きで笑顔でいる、そんな君がとても綺麗だと思ったんだ。だから毎年こうして君と一緒に桜を見ながら過ごせたらどんなに幸せだろうって、あの時そう思った。」
藤堂さんは今私が彼の手の中にあることを証明するかのようにぎゅっと抱きしめた。私は彼の腕の中でふふっと微笑んだ。
「藤堂さんにそう言ってもらえるとすごく嬉しいです。母にはいつも自分で自分を幸せにしなさいって言われてたから……。だからできるだけ前向きに生きようって、いつもそう思っています。でもそうやって一人で頑張っているとちょっと疲れてしまう時もあるんですけどね。めげてしまう時もあるっていうか……。本当は母に言われたように一人でも生きていけるくらい強い人間になっていればいいんですけど……」
ふと必死にわたしを一人で育ててくれた母を思い浮かべる。私は母が願ったような人間になれただろうか?
藤堂さんは私の顎を持ち上げると視線を合わせた。
「凛桜、お母さんは君に一人でも生きていけるように強くなって欲しいと思っていたかもしれないけど、でも一人で生きて欲しいとは思ってなかったと思うよ。きっと誰かに愛されて幸せになって欲しいと願っていたと思う」
彼の真摯な眼差しが私を射抜く。その瞳は私に対する優しさや愛情で溢れている。