キミと桜を両手に持つ
episode14

 早朝、一樹はいつもの様に目覚ましが鳴る少し前に目を覚ました。腕の中では凛桜が静かな寝息を立てて熟睡している。一樹は彼女の安らかな寝顔を見て微笑むとそっと唇を重ねた。すると彼女は何か楽しい夢でも見ているのか満面の笑顔になる。

 可愛いな……

 一樹は何ヶ月も恋焦がれやっと手に入れた女性をじっと見つめた。この週末はほとんど一歩もこの寝室から出ず彼女と愛し合った。彼の下で感じている彼女があまりにも愛しくて可愛くて、もし今日が月曜日でなかったら彼女をこの部屋に閉じ込めてまた一日中愛したに違いない。

 一樹は大きな溜息をつくと、伸びをしてそっと腕を彼女から離した。突然温もりがなくなったのを感じたのか彼女は眉根を寄せるともそもそと動きながら一樹の方へすり寄ってきた。

 再び体が彼女を欲して硬くなってくる。寝ている彼女をこのまま抱こうかと一瞬不埒な考えがよぎる。
 
 ──ダメだ。このままここにいたらまた彼女を抱いてしまう……

 後ろ髪引かれる思いでベッドから起き上がると、一樹はゆっくりとキッチンへと向かった。

 キッチンでコーヒーを淹れる間、一樹は凛桜が部屋のあちこちに飾った観葉植物や生け花を見渡した。リビングには大きなガラスの花瓶に枝ごと生けられたドウダンツツジが大きく枝を伸ばしていて、この暑い季節にこの部屋だけが緑ある涼しげでとても心安らぐ空間になっている。ベランダには彼女が色々と野菜やハーブを植えているプランターもある。

 こうして自分の家を見渡すと以前は家具しかなかった無機質だった部屋が、今はどこもかしこも彩り鮮やかで活気があって、でもホッと心安らぐものもあって彼女の性格そのものを表している。
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