キミと桜を両手に持つ
凛桜は毎日彼の心に安らぎを与えてくれる。どんなに仕事が忙しくても、どんなに嫌なことがあっても、彼女の待つこの家に帰ってくればこうして一樹を幸せにしてくれる。
一樹は部屋をすこし考え込むように見渡しながらコーヒーを飲む。やがてそのマグカップをカタンとカウンターに置くとキッチンに飾ってある花瓶の中から花を一輪引き抜いた。
その花を持ったまま再び寝室の方へ向かって歩く。一樹は自分の寝室ではなく凛桜の寝室の前に立つとそっとドアを開けた。
彼女の部屋は一樹の使っている主寝室よりもかなり小さく半分くらいしかない。奥の方に彼女のベッドがあって、右の壁側にはモチヅキ家具で買ったドレッサー、反対側の壁にはお揃いのチェストが置かれている。
一樹は花を持ったまま部屋の中へ進むとチェストの前に立った。チェストの上には写真立てがいくつも置いてあり彼女の母親の写真が飾られている。
凛桜とそっくりのとても美しい女性。そしてこの世を去ってしまうには余りにも早すぎた彼女の母親……。一樹は写真立ての側に飾られた小さな花瓶の中に手に持っていた一輪の花を差し込むと、じっと彼女の母親の写真を見つめた。
女性が一人で子供を育てるというのはいつの世でも大変なことだ。特に現在の日本は労働賃金が他の国と比べてもとても低く、女性一人が働きながら子供を育てていくのは容易なことではない。
凛桜の話では彼女は特に手に職もなく学歴もあまりなかった為、今の凛桜のように高い給料の職には就けず生計を立てるのにとても苦労したらしい。その為凛桜には同じ苦労をさせたくないと教育には厳しかったと聞いている。