キミと桜を両手に持つ
「凛桜、近いうちに俺の家族に会って欲しい」
凛桜は再び目を開けると「はい」と微笑んだ。
「俺の家族のことなんだが、前も話したと思うけど大きな事業をしててね、もしかすると普通の家庭とちょっと違うと思うところがあるかもしれない。でも両親も兄姉もごく普通のどこにでもいるような気さくな人達だ。きっと気にいると思う」
凛桜は少し疑問符を浮かべながら一樹を見るが「分かりました」と言って再び微笑んだ。
「あの、ご実家って大きな老舗の和菓子屋さんですか……?」
凛桜のその質問に一樹はクツクツと笑うと上掛けをするりと剥がした。彼女が可愛くて愛しくてしょうがない。一樹は急に我慢できなくなって彼女の上に覆い被さった。
「まあ、似たようなもんだ。……凛桜、ごめん。もう一度君を抱きたい……」
一樹は彼女の耳にそう囁くと唇を彼女の細く滑らかな首に這わせた。凛桜は首をのけ反るようにして一樹にさらすと、はぁっと婀娜めいた溜息を漏らした。
「今、何時ですか……?」
「会社に行くまでまだ2時間もある」
一樹は口元に笑みを浮かべてそう答えると、彼女に深く口付けをした。
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「前田さん、今ミーティングいいですか?」
一樹は彼らの近くのテーブルで進捗確認のミーティングを行っている凛桜をチラリと見ると、隣のデスクに座っている前田さんに声をかけた。彼はPCから顔を上げると視線を一樹に向けた。
「いいよ。じゃ、そこの会議室で」
前田さんはパタンとノートパソコンを閉じると立ち上がってリフレッシュルームの隣のガラス張りの小会議室へと歩いた。
「なぜアグノスの件を如月さんにまわすことを俺に言わなかったんですか。それにディレクターなら如月さんじゃなく他にもいたでしょう」
一樹は前田さんと会議室に入ってドアを閉めた途端彼に問い質した。