キミと桜を両手に持つ

 「向こうが如月さんを指名してきたんだよ。正確に言えば藤堂さんと如月さんね。最初のヒアリングで是非お二人にお願いしたいですって言われた。まぁ藤堂さんを指名してきたのは以前このサイトを担当したから当然と言えば当然か。如月さんはこういう若者向けのアパレルサイト得意分野だし。去年も大手アパレルサイト担当してすごく評判良かったからどこからか聞いたのかもね。これも当然と言えば当然か。個人的に色々と事情はあると思うけど、まぁ仕事だからね。でも流石にこの案件藤堂さんは嫌だろうと思って俺が引き受けた」

 前田さんは持ってきたノートパソコンを開いてアグノスの資料を引っ張り出すとそれを眺めた。

 確かに個人的な事情があろうとなかろうとこれは仕事だ。個人的な感情は無視して仕事するべきなのは分かっている。それに凛桜が優秀なディレクターで特にアパレルサイトが得意なのもわかっている。ただ自分と凛桜を名指しで指名してきた事になぜか嫌な予感を覚える。

 「……誰が俺と如月さんを指名してきたんですか?」

 「なんとなく誰か想像つかない?このECサイトを以前も担当した花園さんの上司と言えば今も昔もあいつしかいないだろ」

 「……あいつ、いったい何考えて……!」

 一樹は思わず拳を握りしめた。あまりにも強く握りしめた為か指の関節がボキボキと鳴る。

 「やっぱり俺がこの件を担当します。だから如月さんを今すぐ外して欲しい」

 「そう言うと思ったから言わなかったんだよ。藤堂さんがこの件を引き受けてみろ、それこそあいつの思うつぼだろ。如月さんなら大丈夫だ。打ち合わせには殆ど俺がいくようにしてるし、如月さんが行かなきゃいけない時は必ず皐月さんと遠坂くんを連れて行くように言ってある」

 そう前田さんに言われるものの、ふつふつと怒りが込み上げてくる。

 「あれから既に三年も経っているのに一体何がしたいんだ」
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