キミと桜を両手に持つ

 「さあな……。でも人間って驚くほど変わらないものなんだな……」

  前田さんは驚きとも呆れともつかない声を上げた。

 「俺達みんな彼女に惚れたよなー。俺も、藤堂さんも、堀川も。5年前は彼女も新卒だったしピュアでグループアイドルの〇〇ちゃん似で、あの遠慮がちな仕草とかキラキラした大きな目に本当やられたよな。小動物みたいで超可愛かった!」

 前田さんはわざとらしく遠くを見つめながらうっとりとした。

 「でもな、彼女は新卒だった5年前も今も全く変わらない。あの見た目も変わってないのも驚きだけど彼女自身何も変わってない。3年ぶりに会ってそう思ったよ」
 
 一樹には前田さんの言っている意味が痛いほどよくわかる。

 花園さんは基本的に大人しく、常に周りが自分をどう思っているかを気にしていて皆から嫌われないように細心の注意を払っている。そういう性格とあの見た目もあって、皆によく可愛がられていた。ただその反面、彼女は異常なほど自己肯定感が低い。

 出会った当時彼女はまだ新卒で、自信なさげな態度でも新しい環境や新社会人としての生活に慣れていない事で色々と不安になったり自信を無くすことは誰にでもよくある。なので一樹も彼女の問題に気づくことはなかった。

 しかし付き合いだして間も無く、常に自信のない彼女の性格が二人の関係を苦しいものにしている事に気付く。

 彼女は自分も信じられないが他人も信じられない。どんな真摯な言葉も態度も疑心暗鬼になってしまい常に不安になる。でも他人から認めてもらいたい、求めてもらいたいという願望は常にある。その為いつも人の顔色ばかり窺ってしまい強く求められると断れず誰にでも流されてしまう。

 それでも一樹は彼女はそのうち変わるだろうと信じていた。仕事で経験を積んで一樹が愛情を注げば自信を持つと思っていた。でも結局変わることはなかった。
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