キミと桜を両手に持つ
「花園さんと接触して如月さんを傷つけるような事にでもなったら彼女を返してもらうよ」
一樹はゆっくりと椅子から立ち上がると前田さんを真直に見据えた。
「……凛桜はあなたのものじゃない。なぜそんなに彼女に構うんです?」
「俺、こう見えても如月さんの事はすごく大切にしてるんだよね。あのさ、あれだけ如月さんといちゃいちゃしてあちこち出かけてたら一発でバレるよ。神楽坂もどこかで君たちの事見たんじゃないかな」
それを聞いた一樹は少し驚いたように前田さんを見た。
「俺達をいつ見たんですか?」
「う〜ん、結構あちこちで見たなぁ……。青山でも見たし、六本木辺りでも見たし……。でもモチヅキ家具でいちゃついてるのを見た時に確信した」
「あの日、あそこにいたんですか?」
「俺、あそこのSシリーズの家具で部屋統一してるんだよね。でも君たちの事なら俺の他にも知ってる人この会社に結構いるよ。営業の紫月さんも随分前に巻き寿司がどうのってすごい騒いでたし」
「巻き寿司?」
一樹は何の事か分からなくて首を捻る。
「とにかくアグノスの件は俺たちに任せろ。藤堂さんが表に出なければ無事終わって花園さんとの縁も切れる。いつも如月さんの前に立ちはだかって彼女を守るだけが愛じゃない。時には信じて遠くから見守るのも愛だよ」
前田さんはそう言ってドアを開けると会議室から出て行った。
✿✿✿
「凛桜、紹介するよ。この人は金城さん、あそこにいるのは菅原さん、それから──…」
週末、一樹は凛桜を連れていつも友達と一緒に遊んでいるバスケへとやってきた。友達を前に一樹は順番に仲間を凛桜に紹介する。
「──…そして最後に、彼は桐谷蓮、詩乃の婚約者だ」
「へー、この子が一樹が新婚さんごっこしてる子かぁ──…」
菅原さんがそう小さく呟いたのを聞いた蓮がパコンと彼の頭を叩いた。