キミと桜を両手に持つ

 加賀さんはTwizzlersを受け取りながら藤堂さんと前田さんのデスクを見た。二人共今日は来日している本社の上層部の人達と朝からずっとミーティングをしている。その為、前田さんから今日のアグノスとのミーティングは花梨ちゃんと遠坂くんを連れて行くように言われている。

 「うわ、なにこの味。なんかプラスチック食べてるみたい」

 加賀さんは一口Twizzlersを食べて顔をしかめると、テーブルの端っこに置いてあったスプレーを手にした。

 「何これ?」

 「あ、これですか?なんかすごい臭い匂いのするスプレーみたいなんです」

 平井くんがそう説明すると

 「なんでそんなものくれたの?」

 と言って加賀さんは英語で書かれたスプレーのパッケージを興味津々で見た。

 「なんか冗談というかちょっとした遊び心でくれたみたいなんです。ほら、エンジニアのサムいるじゃないですか?いつも冗談ばかり言う人。あの人が面白いだろってくれたんです」

 「そんな役に立たないものくれてどうするの。私このお菓子でいいわ。ちなみにどんな匂いするの?」

 加賀さんがパッケージを開けてスプレーを押そうとすると平井くんと佐伯くんが慌てて止めた。

 「わー、ちょっと待って!それ遠坂くんにも絶対にオフィス内で使うなって言われたんです。使うんだったら必ず野外でやれって。服とか肌に付くとしばらく匂いが取れないみたいなんです。すごく臭いオ◯ラの匂いのするスプレーだって言ってました」

 「えっ……そうなの?」

 加賀さんはまるで爆弾でも扱っているかのように慎重にパッケージを閉じて、両手でそっとスプレーを元の位置に戻した。

 その時ピロンとスマホの着信音が鳴り、藤堂さんから「第5会議室」と短いメッセージが届く。

 「ごめん、ちょっと用事」

 慌てて立ち上がると、加賀さんに席を譲って急いで第五会議室へと向かった。
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