キミと桜を両手に持つ

 静かな廊下をコツコツと歩き、15階の奥まった所にある会議室へと向かう。丁度第五会議室の前まで来ると突然ドアが開いて藤堂さんが私を中に招き入れた。

 「どうしたんですか?」

 今でも会議中なのではと思いチラリと時計を見る。

 「少しの間抜けてきた」

 そう言って藤堂さんは私を腕の中に囲った。

 「……いつアグノスへ行くんだ?」

 藤堂さんは朝からそわそわしていて私が今日の撮影に行く事をとても心配している。もし本社との重要な会議がなかったら私についてきそうな勢いだ。

 「あと一時間くらいです」
 「凛桜、何かあったら必ず連絡してくれ」
 「ふふっ、大丈夫ですよ。そんなに心配しなくても」

 心配性の彼に思わず笑みを漏らしてしまう。ただ単にクライアントに会うだけだし、今日は撮影だからスタッフも大勢いる。彼が何をそんなに心配しているのかわからないけど花園さんとも特に今まで何も問題は起きていない。

 「……わかってる」

 彼は大きく溜息をつくとコツンと私と額を重ねた。

 「早く帰っておいで。来週末は凛桜の誕生日だろ?実はキャンプ場を予約したんだ。近くに魚釣りできる場所もある」

 「えっ?キャンプに連れて行ってくれるんですか?」

 キャンプは夏に行くものだとばかり思っていたから嬉しいと共にすこしびっくりする。

 「秋に行くキャンプも綺麗だよ。でも少し寒くなるからこの週末一緒にいろいろ買いに行こう」

 「わぁ、すごく楽しみ!」

 思わず彼に抱きつくと、藤堂さんは愛しそうに私の頬を撫でた。

 「君に見せたいものもあるんだ」
 「なんですか?」
 「誕生日まで秘密」

 そう言ってチュッと軽く私に口付けた。

 誕生日プレゼントかな……。何を用意してくれたんだろう?
< 160 / 201 >

この作品をシェア

pagetop