キミと桜を両手に持つ
彼女は物欲しそうに指を咥えると私と藤堂さんを交互に見た。
「ねぇ、一つだけ聞いていい?」
「は、はい……」
「もしかして家では巻き寿司あ〜んとか──」
彼女が言い終わる前に思わずガシッと彼女の腕を掴んだ。
「紫月さん、お願い。ここで見た事は誰にも言わないで……」
縋るように見ると彼女は慌てて首を振った。
「も、もちろん言わないよ!お口チャーックね」
そう言って口を閉じる仕草をする。
「でもさ、社内の人皆知ってるからそんなに気にしなくても大丈夫だよ」
紫月さんは私の肩をポンポンと叩いた。
「えっ?し、知ってるって……」
「如月さんと藤堂さんが付き合ってるって事に決まってるじゃん!もう二人ともラブラブでお互い大好きなのダダ漏れだよ。えっ?気付いてないの本人達だけ?」
えっ……。そんなに会社の人達に知れ渡ってるの!?
彼とは会社ではプロフェッショナルに接していたので誰にもバレてないと思っていた。
「藤堂さん狙ってた子、沢山いたからねー。みんな泣いてたよ。特に高橋さん?最近めっちゃ機嫌悪いじゃん。ほら、藤堂さんに毎日しつこく言い寄ってたでしょ?この会社で自分が一番脈あると思ってたみたいなの。ぷぷっ、あの自信一体どこからくるんだろうね。如月さんと藤堂さんが付き合ってるって分かった時のあの顔と言ったら、般若かって感じだったよ。彼女さ、あんな可愛いふりしてるけどすごく性格悪いから気をつけた方がいいよ」
彼女にそう言われて初めて色々と思い当たる節がある事に気付く。ここ最近嫌がらせというか、エレベーターから降りる時にわざとぶつかってきて突き飛ばしたり、16階にある大きな休憩室でランチを食べているとわざと側に来てコーヒーをこぼしたりする。