キミと桜を両手に持つ
でも彼女や他の人にどう思われようが痛くも痒くもない。私にとって重要なのは私が一番大切にしている人達の意見だけだ。どうでもいい高橋さんのような人の意見は大して重要じゃない。
無視してトイレを出ようとすると、彼女はいきなり脚を私の前に突き出してきた。それに引っかかった私はバランスを崩して派手にトイレの床にビタンと転けた。
「痛っ……!」
先日彼女に蹴られた所を再び打ってしまい痛くてしばし蹲ってしまう。
「こんな計算高いだけのつまらない女に引っかかるなんて藤堂さんにはがっかりだわ。制作部の男って顔がいいだけで本当馬鹿な男ばっかり。幻滅したわ」
椎名さんと織部さんは私が床に転けたのを見てクスクスと笑っている。私はむくりと起き上がると、後ろを振り返らずにトイレを出た。
「せいぜい彼に飽きられないように頑張るのね!あなたみたいな可愛げのない女なんてどうせすぐに捨てられるんだから!」
彼女が後ろでそう叫んでいるのが聞こえる。そんな彼女をひたすら無視してコツコツと歩いて制作部まで戻ってくると自分の席には戻らず真っ直ぐに平井くんのデスクへと向かった。
「ど、どうしたんですか、如月さん……?」
突然やってきた私に驚いて平井くんはパチパチと目を瞬いた。私はニコリと微笑むと右手を差し出した。
「平井くん、《《あの》》スプレー私に譲ってもらえないかな?」
✿✿✿
1時間後、荷物をまとめながら花梨ちゃんと遠坂くんに声をかけた。
「そろそろ出ようか?」
「はい」
バッグを持って花梨ちゃんと遠坂くんと共に制作部の出口へと向かう。制作部はプログラム開発などクライアントのデータを扱っている部署になるので他の部署とは違って個別にセキュリティーのついた部屋になっている。