キミと桜を両手に持つ

 「それより如月さん、俺はどう?あいつより君を喜ばせる事ができると思うよ」

 顔をゆっくりと近づけてきた彼を引っ叩こうと腕を上げた時、突然バンッと大きな音がしたかと思うと見慣れた大きな背中が私と神楽坂さんの間に立ちはだかった。

 「もう一度凛桜に指一本でも触れてみろ。その腕をへし折る」

 藤堂さんの姿を見て今まで緊張で張り詰めていた糸がプツンと切れたのか力が抜けてバースツールから落ちそうになる。必死に自分を支えながら藤堂さんを見ると彼は神楽坂さんの腕を捻り上げてバーカウンターに押さえつけている。今まで見た事がないほど冷たい表情をしていて、周りのお客さん達もハラハラしながら彼らを見ている。

 「少し来るのが遅かったんじゃないか?いつも不安で付き合ってる女をつけ回してるわりには時間かかったな」

 「ち、違います。私が彼に連絡してあなたと一緒にいる事と位置情報サービスを使って居場所を知らせてたんです」

 神楽坂さんがホテルでチェックインしている間、藤堂さんに急いで事の成り行きをメッセージで送った。でも彼から返信がなくて、一応万が一の時の為にスマホの位置情報サービスを使って居場所を共有していた。

 神楽坂さんは一瞬驚いたように私を見ると、声を出して笑い出した。

 「本当に随分と女の趣味が変わったんだな」

 「俺に用があるんだろ。言いたいことを言え」

 藤堂さんは突き放すように神楽坂さんを押さえつけていた手を離すと凍りつくような冷ややかな目で彼を見た。

 「彼女が君に会いたがってる」

 藤堂さんが口を開いて何か言おうとすると神楽坂さんはそれを手で制した。

 「会って話だけでも聞いてやってほしい」

 彼はそう言い残すと「騒がせてすまなかったね」とバーテンダーにお金を渡して去って行った。
< 178 / 201 >

この作品をシェア

pagetop