キミと桜を両手に持つ

 「一樹さん、こんなにお料理が上手なのに味付けができないなんて勿体無いですよね。味付けが出来たら完璧なのに」

 綺麗に焼かれたパンケーキを見てふふっと笑う。生まれ持った几帳面な性格からなのかエンジニア気質からなのか大きさも形もまるで機械で作ったかのように同じ形で完璧。

 「いいんだ、俺は出来なくて。それは凛桜に任せるから。でもその代わりキャンピングカーの運転や凛桜が出来ないことは俺がやる。そうしてお互い出来ないところを補っていけば二人で完璧になるだろ?」

 彼はクスリと笑って私をダイニングに座らせた。

 外の景色を見ながら二人でゆっくりと朝食を取った後、支度をしてキャンプ場をチェックアウトすると家路へと着いた。途中真宮さんのお店に寄って、再び車を乗り換える。このキャンピングカーは近場のレンタルガレージにしばらく預けることになった。

 再び高速に乗って東京方面へ戻ると、彼は自宅のある港区ではなく都心から少し離れた郊外へと車を走らせた。なんでもここで私に見せたいものがあるらしい。

 やがて彼は閑静な高級住宅地のなかにあるまだ築浅の立派な家の前に車を停めた。不思議に思いながらも彼に手を引かれ家の中へ入った。すでに以前住んでいた人は引っ越してしまったのか家具も何もない空き家になっている。

 「ここは俺の知り合いの家なんだ。2年前に古い自宅を取り壊して建てたんだけどやっぱり田舎がいいって夫婦で引っ越したんだ」

 こんな綺麗な家をせっかく建てたのにもったいないなと思ってしまう。玄関は間取りがとても広くて手を洗う場所や収納スペースも沢山ある。奥には中庭も見えてとても明るく開放的なつくりになっている。

 玄関を上がって大きな中庭を左手に見ながら広くて素晴らしいキッチン、そしてダイニングを通り過ぎリビングの方へ向かう。どの部屋からもこの中庭が見えて明るくて緑があってとても心落ち着く。
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