キミと桜を両手に持つ
「凛桜に見せたいものはこっちにあるんだ。おいで」
と言ってリビングルームのブラインドを開けると今度は広い裏庭が見える。吸い寄せられるようにガラス窓へ近寄ると一本の桜の木があることに気付く。その枝にはいくつかの桜の花が咲いている。私の名前の由来になった冬桜だ。でもこの桜はつい最近この庭に植えられたものだとわかる。
何故この桜の木なんだろうと思ってじっと見ていると藤堂さんは後ろから私を抱きしめた。
「今住んでいるマンションより会社から遠くなるけど、でも快速に乗れば30分で着く。この家なら犬も飼えるしテントキャンプしたい時は中庭でも裏庭でもいつでもできる。部屋は4つあるから子供だって3人は余裕で持てるし部屋が足りなくなれば建て増しだってできる。この辺りは学校もいいし、子供が遊べる公園やドッグパークもたくさんある」
──え……?
最初何を言われたのかよくわからなくて一瞬呆然とする。でも庭に植えられた桜の木を見て彼の言った意味を理解した途端、急に目の前が涙で霞んだ。
「あのマンションを売り払ってここを買おうと思ってる。もちろんここが嫌だったら二人で一緒に別の家を探そう。その度にそこには桜の木を植えるから」
ゆっくりと彼の腕の中で振り返って向かい合わせになると藤堂さんは私の両手を取った。優しいでも真剣な眼差しが私を射抜く。
「凛桜、俺と結婚してほしい。まだ出会って少ししか経っていないのはよくわかってる。でも俺には君しかいない」
そう言われて一気に目の前が霞んで何も見えなくなる。一生懸命ゴシゴシと涙を拭うともう一度彼を見た。
「いつも前向きな君を誰よりも愛してる。君のその笑顔が絶えないようずっと側にいて守りたい。一生君を幸せにすると誓う」
私達二人の人生の大きな出発点に立っていることに泣かずに真剣に答えたいのに、どうしても涙が次から次へと溢れてくる。