キミと桜を両手に持つ

 彼が次々と朝ごはんを口に運ぶのを見てホッとすると私も箸を取った。彼はあまり好き嫌いがないのか何も残さず美味しいと食べてくれる。もちろんお世辞だと分かっているけど、それでもそう言ってもらえてとても嬉しい。


 「そういえば、上野さん病気なんだって?」

 二人でしばらくご飯を食べていると藤堂さんはその綺麗な眉を顰めながら私に尋ねた。実は私も詳しくは知らないけど、噂では癌なのではないかと聞いている。

 「そうなんです。治療の為1ヶ月半の休職をされているんですがフルタイムでの復帰はいつになるかよくわからないみたいで……」

 前田さんからチラリと聞いた感じだとフルタイムで戻ってくるにはもしかすると半年くらいかかるかもしれないと言っていた。

 「そうか、大変だな…。上野さん早く回復されるといいな」

 「そうですね。あまり上野さんの病気のことは詳しく知らないんですけど、前田さんは時々上野さんと連絡をとっているみたいで、術後の経過は順調だと聞いています」
 
 「そうか。それなら良かった。少し落ち着いたらお見舞いに行けるといいんだけど。……制作部は今どんな感じ?」

 「忙しいです。特に今は年度末の繁忙期ですし……。でも前田さんが一番大変そうで。上野さんの分まで引き継いでやってるので」

 「前田さんとはアメリカを出る前に話したよ。実は5月か6月に開発部での仕事で日本に来る予定だったんだ。だからまあタイミングがよかった」

 藤堂さんは苦笑いしながらデザートの苺を口に入れた。

 朝食を終えた後、藤堂さんが食器を片付けてくれると言うので、私はシャワーを浴びて急いで身支度を整えた。そして二人で近くのスーパーまで一週間分の食料品を買いに出た。
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