キミと桜を両手に持つ
「そういえばさ、この前15階の休憩室で藤堂さん見かけたんだけど、総務の高橋さん体くねらせながら一生懸命何か話しかけてたな。彼は相変わらず無反応というか無表情だったけど」
紫月さんはクスクスと笑った。
高橋さんは社内でも美人だと噂高い人で、私も何度か見た事がある。確かに彼女は着ている服からメイク、ネイル、付けているアクセサリーまで全て完璧。まるでファッション雑誌のモデルさんみたいな人。
「高橋さん、最近しつこく藤堂さんにアプローチしてますよね。今度の制作部と開発部の飲み会にも勝手に何処からか情報聞き出してて一緒に参加してもいいですかって前田さんに聞いてたんですよ!」
花梨ちゃんはプンプン怒りながらズッキーニをグサッとフォークで刺した。
やっぱり藤堂さんはモテるなぁ。でもそんなに無表情かな、と思ってしまう。確かに会社にいる時は仕事をしているから真面目だけど、家にいる時はもっとリラックスしてて表情も優しい。
それに週末の夜は一緒に映画を見たり、ボードゲームをして一緒に遊んだりしてて、その時の彼は本当によく笑う。確かに前田さんのように冗談を言ったりする人じゃないけど、頭がいいのか会話の内容も豊富でそんな彼と一緒に過ごすのはとても楽しい。
「でもさ、藤堂さんって既に女がいるんじゃないかと思うんだよね。そういう噂もあるし」
紫月さんは急に声を低くするとすこし前かがみになった。思わず私たちも彼女の話を聞こうと前かがみになる。
「一昨日さ、オフィスビルのルーフテラスに休憩がてらちょっと行ったの。そしたらさ、藤堂さん自分で持ってきたお弁当食べてたんだよ!しかも巻き寿司だよ!あれは絶対に男の料理じゃないと思うの。女が作ったに決まってる」
それを聞いた途端、思わずゴフッと咳き込んだ。