キミと桜を両手に持つ
「大丈夫!?」
「大丈夫ですか!?」
詩乃さんと花梨ちゃんが慌てて差し出す紙ナプキンを受け取ると、咽せながらもなんとか頷いた。
「うん、大丈夫……。ゴホゴホッ。ちょっと気管に入っちゃった」
必死に胸をトントン叩きながら喉に詰まったものを冷たい水で流し込んだ。
……び、びっくりした。藤堂さんあれをお弁当に持ってきてたんだ……。
この日曜日、彼が巻き寿司が好きだと言うので夕食に張り切っていっぱい作った。それで翌日残ったものを私もランチに持ってきていた。
確かに月曜日の夕方、残りの巻き寿司を食卓に出そうとした時全部なくなっていたので「あれ?」とは思ったけど、多分彼が家に帰ってからつまんで食べたくらいに思っていた。まさか同じようにランチに持ってきていたなんて知らなかった。
「あれ?そういえば、如月さんも月曜日お弁当に巻き寿司持ってきてましたよね」
花梨ちゃんが少し不思議そうに首を傾げて私を見た。
「う、うん。そうだね。春だからかな。最近スーパーでたくさん安売りしてるじゃない?藤堂さんもきっとスーパーで買ってきてそれをお弁当にしたんじゃないかな」
彼がスーパーの安売り巻き寿司をわざわざお弁当に詰めて持ってくるとは全く思えないけど、紫月さんは「ふーん」と特に何も疑わずに私の言葉を聞き流して再び藤堂さんの話に戻った。
「お弁当もそうなんだけどさ、飲みに誘ったりしてもすぐに家に帰りたがるらしいのよ。この前も営業の新田くんが藤堂さんを誘ったらしいんだけど、一杯だけ飲んでご飯も食べずにすぐ帰ったんだって。絶対、誰か家でご飯作って待ってるんだと思うな」
紫月さんの話を聞いていると、だんだんと頬が火照ってくる。赤面しているのを気づかれたくなくて俯いたまま黙々とランチを食べた。