キミと桜を両手に持つ
「へぇー。そんなに早く家に帰りたがるなんて藤堂さん一体誰と一緒に住んでるのかしら」
詩乃さんは悪戯っぽくそう言ってクスクスと笑った。
彼はすごく真面目だからきっと同居している私に気を使ってわざわざ早く帰ってきてくれるんだと思う。それにご飯を作ってくれるお礼と言って、週末は私の好きなスイーツをわざわざ有名店で列に並んでまでも買ってきてくれたりする。
藤堂さんはとても優しい。紫月さんの話を聞きながら、そんな心遣いをしてくれる彼に私の心はじわりと熱くなる。
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その日の夕方、夕食のメニューを考えながら足取りも軽くオフィスを出た。
お昼食べたチキンのトマト煮でもいいんだけど、やっぱり彼の好きなチキン南蛮にしようかな。それと茄子とオクラもあったよね。それで焼きびたしとか……?
最近料理をするのがとても楽しい。藤堂さんが私と一緒に夕食を食べるために早く帰ってきてくれるという紫月さんの話もあるけど、実は彼と二人で他愛もないおしゃべりをしながら一緒に料理をするのが私の密かな楽しみになっている。
それに彼は基本的に好き嫌いがなく、なんでも美味しいと言って食べてくれる。夕食はいつも二人で仕事の話やその日にあった面白い出来事など話したりして会話が尽きない。
でもそんな楽しい彼との生活ももうすぐ終わりになる。彼は近いうちにアメリカに帰ってしまうだろうし、私も彼のマンションを借りれる期間がもう切れてしまう。