キミと桜を両手に持つ

 ……藤堂さんって思ってたのと全然違ってすごく優しい人だったな。あんな人と結婚できる人ってきっと幸せになるんだろうなぁ……。

 そう思うと同時に急に和真に言われたことが頭に浮かぶ。

 ──凛桜はいつもそうだよな。甘えもしないし、誰も必要としない。なんでも自分でやってしまう。そんなんで男が一緒に居たいと思うか?──

 未だ胸に突き刺さっている言葉にぎゅっと目を閉じた。

 本当は私だって愛されたかった。愛する人の待つ家に帰りたかった。毎晩その力強い腕に抱かれて安心して眠りたかった。

 強くなろうと一生懸命なのに本当は弱くて寂しがり屋。こんな不器用な私でもいつか一緒に居たいと思ってくれる人は現れるのかな……。

 和真を失って、今度は藤堂さんとの生活も失って、そして私はまた一人ぼっちになってしまう──…
 
 同じビルで働く大勢のサラリーマンやOLが帰宅する中、孤独に感じながらコツコツと通りへと出る階段を降りていると突然背後から誰かが私を呼んだ。

 「──凛桜」
 「……か、和真!?」

 振り向くとちょうど考えていた本人が目の前に突然現れ内心激しく動揺する。

 「おい、解約ってなんだよ。俺はどこに住めばいいんだよ」

 和真は怒った口調で私に詰め寄った。彼の剣幕に驚いて思わず後退りする。まさか彼がここまで私に会いにくるとは思ってもいなかった。

 二人で同棲していたマンションは私名義で借りていて今でも口座から毎月自動でお金が引き落とされている。でも同棲が解消になった今、住んでもいないマンションに私が払う義務はない。それに新しいアパートの支払いもある。それで違約金を払ってでも解約したいと和真に先日メールで伝えていた。
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