キミと桜を両手に持つ
「い、痛い……!離して……!」
こういう時男の人の力というのはかなり強い。私がいくら押しのけようとしても力一杯押さえつけられては太刀打ちできない。
「俺は次の部屋が見つかるまで絶対にあそこから引っ越さないからな。だからそれまでは凛桜が半額払え」
「見つかるまでっていつ?」
「さぁ……。いい物件が見つかるまで?」
彼はあのマンションの部屋をすごく気に入っていた。同等なマンションで彼の収入だけで払える部屋なんてそうそう見つかるわけがない。
それに引っ越し費用や新居の初期費用などで半年前にも大きな出費があったのに、この同棲解消で出費が重なり金銭的にかなり厳しいはず。
「そんなの無理!私だって新しいアパートのお金が必要になるもん。違約金は全額私が払う。だからお願い、離して!」
必死に逃げようと踠いていると、和真は私をバンっと壁に押し付けた。そのはずみで頭を打ってしまい一瞬めまいがする。持っていたバッグがどさりと地面に落ちて派手な音をたてた。
「金が無いとは言わせない。今ここで凛桜が約束できるまでこの手を離さない。解約はなし。俺が次のマンションを見つけるまでは凛桜が半額はらう。今ここで誓……いでででで!!」
突然大きな手が私と和真の間にぬっと伸びると、私の腕を掴んでいる和真の手をひねり上げた。
「こんなところで女性に暴行とはな。何してるんだ」
その男性は私を背にして和真と向かい合っているので顔は見えない。でも低く安心するような声で誰だかすぐにわかる。
「誰だよ。あんたには関係ないだろ。これは俺とこいつの問題なんだから」
和真は藤堂さんの手をバシっと振り払うと再び私に手を伸ばしてきた。するとすかさず藤堂さんは私を守る様に立ちふさがった。
「彼女には指一本触れるな」
彼の低い声には怒気が含まれていて和真はその場にピタリと固まった。和真は身長が175センチくらい。身長差は歴然で藤堂さんのような大男に見下ろされかなり圧倒されている。