キミと桜を両手に持つ
「なんだよ、あんた。凛桜の新しい男?」
和真はジロリと藤堂さんを睨んだ。彼をこんな揉め事に巻き込みたくなくて私はすかさず和真の前に進み出た。
「やめて!この人は私の上司なの。彼は何にも関係ない」
和真はこれ以上事が進められないと思ったのだろう。私と私の後ろに立ちはだかる藤堂さんを忌々しげに見た。
「いいか凛桜、絶対に解約するなよ」
和真は私にそう言い放つと路地裏から去って行った。
……こ、怖かった……。
震える体を両手で抱きしめながら藤堂さんにお礼を言った。
「助けていただいて本当にありがとうございました」
彼が来なかったら、今頃どうなっていたかわからない。今までずっと愛して信じてきた人に手荒くあしらわれショックで体の震えが止まらない。
まさか和真があそこまで暴力的になるとは思わなかった。金の切れ目が縁の切れ目……という感じなのだろうか。こんな時の為に護身術でも習っておけばよかったと悔やんでしまう。
「大丈夫か……?」
藤堂さんは心配そうに私を覗き込んだ。
「一緒に帰ろうと思って如月さんを追ってたら、突然男が君を路地裏に引き摺り込むのが見えて焦ったよ。とにかく無事でよかった」
彼は私の顔色を一目見ると、腕を伸ばしてそっと私を抱きしめた。怖くて荒ぶっていた心が彼の逞しい胸に抱かれてひどく安心する。ほんの少しの間だけ目を閉じて頬を彼の胸に寄せた。
彼は壁に打ち付けられたわたしの後頭部や強く握られた腕を何度もさすった。
「顔色が真っ青だ。タクシーで帰ろう」
「大丈夫です、これくらい。電車で帰りましょう」
そう言って彼の腕から体を起こすと、地面に散らばった私物を拾おうとした。でもガクガクと手が震えて上手く拾えない。震える手を握りしめて気を少し落ち着けようとしていると、藤堂さんが黙って私の代わりに荷物を拾ってくれた。
「表通りまで歩けるか?」
コクンと頷くと私の肩を抱いて通りまで一緒に歩いてタクシーを拾った。