キミと桜を両手に持つ
「多分そんなことじゃないかと俺も詩乃も思ってたよ。普通水漏れの修理はもちろん度合いにもよるけど一ヶ月以上もかからないから。……彼に暴力でも振るわれてたのか?」
彼の目には和真への怒りと私への心配が滲み出ている。そんな彼の表情を見て私は正直に初めから話すことにした。
「一ヶ月ちょっと前、彼と同棲していたマンションに仕事から早く帰ると、彼と彼の後輩だという女の子がベッドにいて……」
あの日を思い出して再び悲しくなってくる。今でも二人をベッドの上で見た時のショックとあの部屋に充満していた二人の情事の匂いが忘れられない。
「……彼は私じゃなくてその子を愛してるからって言われてマンションを飛び出しました。でも行き場がなくて……。あの頃は仕事が忙しくて新しく住む場所を探す時間もなくて、ホテルやネカフェを転々としていたら、詩乃さんに見つかりました。それで水漏れの話をしたら使っていない従兄の部屋があるからって言われて……。詩乃さんと藤堂さんに今まで嘘をついてて本当にごめんなさい」
再び頭を深々と下げて謝った。でも彼の目をまともに見る事が出来なくて俯いたまま両手を握りしめた。
「如月さん、もう謝らなくてもいいから頭を上げて。信じていた恋人に裏切られた辛さやその事を誰かに知られる辛さなら俺にもよく分かるから」
藤堂さんは何か思い出したかのように少し悲しそうな顔をした。
「ただ如月さんの事が心配だ。彼はきっとまた君に接触してくる」
確かに彼の言う通りだ。和真は必ずまたマンションのことで私に会いにくる。藤堂さんのこのマンションまで押しかけられたらそれこそ大変だ。