キミと桜を両手に持つ

 「こんなことに巻き込んでしまって本当に申し訳ありません。でもこれ以上迷惑はかけません。実はもう次に住む場所を見つけていて、今週末契約しようと思っています。そしたらすぐ引っ越します」

 ここでの暮らしを捨てきれなくて今までずっとグズグズしてたけど初めからさっさと契約すべきだった。そしたら和真との問題に彼を巻き込む事もなかったし、そもそも藤堂さんとのこの生活が終わる事にこんなに寂しい気持ちにはならなかったはず。私はきっとここに長居し過ぎてしまったんだ。

 「……うん、実はそれなんだけどな。ずっと前から思ってたんだけど……」

 藤堂さんは少し躊躇ったように一旦言葉を区切った。視線を上げるといつもの優しい瞳とぶつかる。でもいつもと少し違って優しさの中にも何か真剣なものがある。

 「……俺たちここで一緒に暮らさないか?」
 「……は……えっ?」

 頭にすぐ疑問符が浮かぶ。だって彼はもうすぐアメリカに戻るはずでは?それともアメリカに行くまでの数週間って事?

 「あの、それっていつまででしょうか……?藤堂さんがアメリカに戻るまで?」
 
 私の反応を食い入るように見つめていた彼はこの質問に小さく笑った。

 「うん、そうだな……。如月さんが飽きるまで?」

 「で、でも藤堂さん、もうすぐアメリカに戻られますよね?」

 なんだか話がよく見えなくて混乱する。

 「実はこのまま制作部に戻ってこようと思ってる。上野さん、この病気を機に地元の福岡へ戻りたいらしいんだ。ネットアーチは名古屋と大阪それから福岡にも事業所があるだろ。前から東京での通勤や生活スタイルが合わないって言ってたから地元に戻って福岡のオフィスから少しゆっくり働きたいって言ってた。俺もちょうど日本に戻りたいと思ってたからこのまま上野さんの代わりに制作部に留まろうと思ってる。アメリカも楽しかったけど、やっぱり自分には日本があってる。もちろん一度アメリカに戻って引っ越しの手配をしたり向こうのチームとの引き継ぎがあるけど、その後はずっとここで働こうと思ってる」
 
< 41 / 201 >

この作品をシェア

pagetop