キミと桜を両手に持つ
「……それにしてもすごい部屋。なんか一人で使うのがもったいない感じ」
詩乃さんが出て行った後、バルコニーに出て外の景色を眺めた。眼下には先ほど見た桜並木が見えて、空を見上げると綺麗な青空。まだ少し肌寒いけどとても気持ちいいお天気。
バルコニーにはアウトドア用のラウンジチェアや長いソファーも置いてあってここで昼寝ができそうだ。
ここは詩乃さんのイトコのマンションで、今は海外赴任してて住んでおらず彼女が格安で借りているとの事。でも最近彼女は恋人の家に住んでいてこの部屋を使っていないらしく、行き場を失った私に一ヶ月ほど貸してくれることになった。
そもそも私がこんな境遇に陥ったのは先週の水曜日。
その日の午後、打ち合わせで訪れた会社がたまたま住んでいたマンションの近くだった。それでミーティングが終わったあと、定時に近かったこともあり帰社せずにそのまま家に帰ることにした。
あの時帰社していつもの様に残業していたら今でも恋人の相澤和真とは一緒に暮らしていたかもしれない。でも何故かあの日は早く帰った方がいいような、帰らなければいけない様なそんな気がした。
そうして家に帰ってみれば、玄関には見た事のない女物のパンプスがある。寝室の方からはベッドの軋む音や甘ったるい女の声が聞こえてくる。
凍りついた体をなんとか動かして半開きになった寝室のドアから中を覗いてみれば、以前彼の後輩だと紹介してくれた女の子が一糸纏わぬ姿で和真に組み敷かれながらベッドで喘ぎ声をあげていた。