キミと桜を両手に持つ

 「うわぁ……如月さん、びしょびしょじゃないですか。大丈夫ですか?」

 花梨ちゃんは私の濡れた服を眉根を寄せて見た。そんなにびしょびしょと言うわけでもないけど今日着ているワイドパンツは濡れると目立ってしまう素材で出来ている。でもわりと早く乾く素材でもあるので問題はない。

 「うん、大丈夫。今から行くの?歓迎会ってすぐそこの居酒屋だよね?」

 「はい。如月さんもこのまま行きますか?」

 「ごめん。今から急いで対応しないといけない件があるから、それが終わったら急いでそっちに向かうね」

 タオルで濡れたバッグを拭きながら花梨ちゃんと話していると、後ろに立っていた佐伯くんが眉を顰めてわたしの顔を見た。

 「……如月さん、なんか顔色悪くない?」

 「えっ、うそ?……あ、そういえば打ち合わせが終わった後、無性に甘いものが食べたくなって抹茶クレープ食べたのがいけなかったのかも。クリームが多かったのかな。電車の中でちょっと気分が悪くなっちゃった」

 それを聞いた佐伯くんはぷっと笑った。

 「如月さん、Nコーポレーションの件でストレス溜まってるんだろ。ストレスかかるとすぐ甘い物食べるよな。向こうの新しい広報部長、大変なんだって?」

 佐伯くんは私に同情するような目を向けた。

 「大丈夫。ああいう人の扱いには慣れてるから。私も終わったらすぐそっちに向かうから先行ってて」

 「はーい」

 花梨ちゃんと佐伯くんは丁度きたエレベーターに乗り込んだ。二人とも色々な理由で付き合ってる事を隠してるんだろうけど、花梨ちゃんの佐伯くんを見る幸せな笑顔が全てを物語ってる。
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