キミと桜を両手に持つ

 「……ちょっと、一体どういうこと!?」

 ドアをバンっと開けて寝室に足を踏み入れた途端、ムッとする激しい情事の匂いに思わず口と鼻を手で覆ってしまった。はっきり言って彼は淡白な方だと思っていたのでこんなに汗だくで夢中になってる姿にある意味愕然とする。

 「うわっ……!」
 「きゃっ……!」

 突然現れた私にかなり驚いたのか、悲鳴をあげながら和真は飛び起きた。後輩の子も慌ててシーツで体を覆った。

 「えっ、ちょっ……今、何時…?」

 なんてどうでもいいことを呟きながら和真は時計を探している。

 「何時でも関係ないでしょう!……ちょっとそんなモノこっちに見せないで!早く何か着て!二人とも早く服を着て!」

 私は思わず床に落ちていた枕を彼の下半身に向かって思い切り投げつけた。




 「凛桜は俺がいなくても一人で生きていけるだろ。でも彩花は俺がいないとダメなんだ。彩花を愛してるんだ」

 身支度を整えた和真は、私を前に動揺している彼女を庇いながらそう言い放った。

 ……確か昨日の夜は私を愛してるって言ってたよね……?と思わず突っ込みそうになる。でも和真にそう言われて感動したのか彼女がグスっと泣き出して、私は口をつぐんだ。

 浮気されて泣きたいのは私の方なのに、なぜか私が二人の恋路を邪魔する悪者扱いされている気分になる。和真は明らかに私ではなく先程から泣いている彼女を必死に庇っている。
 

 和真とは二年前、仕事を通じて出会った。いつも「愛してるよ」「一生大切にする」と言葉で伝えてくれる人で、彼のそういう情熱的な素直に気持ちを伝えてくれるところにとても惹かれた。

 彼とは二年間付き合っていて半年前からこのマンションで同棲もしていた。でもどうやら彼は私の他にも愛してる女性がいたらしい。
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