キミと桜を両手に持つ
「そう。あのソファーをまたベッドにして横になって映画を見ようか」
「あ、えっと……横になりながら見るんですか……?で、でも私、寝落ちするかも……」
「だったら寝てもいいように初めからブランケットと枕を持ってこようか?その方がくつろげるし」
「……じ、じゃぁ、そうしようかな。あとで自分の枕と上掛けを持って来ますね」
凛桜が頬を赤らめているのを見て、一樹は口元に笑みを浮かべた。今夜も先週と同じように彼女の寝顔を見ながら寝れるのかと思うと嬉しくて仕方ない。
その夜、洋画を見ていると最後の方で凛桜は寝てしまった。穏やかな寝息をたてている彼女にそっと上掛けをかけると、そのあどけない寝顔をじっと見つめる。
先週の歓迎会で、一樹はどうでもいい女性たちに囲まれながら凛桜が来るのをひたすら待っていた。
「一樹さん、もう一杯いかがですか?」
隣では先ほどから高橋さんが馴れ馴れしく一樹の名前を呼んで、飲み物を注いだりや食べ物をよそったりとしてくる。高橋さんは一般的に可愛いと言われる容姿の女の子で、自分が可愛く見えるにはどうしたらいいかよく知っている。
上目遣いで見つめてきたり、軽くボディータッチをしてきたり、大きく開けたシャツの胸元からはわざとなのかチラチラと下着が見えるように体の向きを変えながら話しかけて来る。一樹は昔からこういうあざとい女が大嫌いだ。
「さっきから時間気にしてるようだけど大丈夫?」
女の子達と楽しそうに盛り上がっていた前田さんが突然声をかけてきた。
「如月さんがなかなか来ないんだ。打ち合わせに行ったんだが、長引いてるのか?」
あの案件は頓挫していてなかなか進んでいない。今日は必ず企画とデザインを通すと言って出て行ったので、もしかすると交渉に長引いているのかもしれない。