キミと桜を両手に持つ

 「そんなに心配しなくても大丈夫だと思いますよ。そもそも彼女、仕事もよくできるし、すごくしっかりしてるし。ね?」

 槇原は周りに同意を求めるようにそう言うと、再び女の子達と飲み始めた。

 そんな槇原をひと睨みして一樹はスマホを取り出すと、凛桜に「どこにいる?」とメッセージを送った。でも既読にさえならない。

 「今からオフィスに戻る」

 荷物をまとめてすくっと立ち上がると、皆が唖然として一樹を見た。

 「えっ、ど、どうして?」

 特に高橋さんは隣で呆気に取られている。彼女は酔ったふりでもして一樹に家まで送ってもらおうとしているのか、一緒に店を出ようと大慌てで支度をしている。

 「おい、誰か如月さんがオフィスに戻ってきたのを見てないか?」

 声を上げて尋ねると、佐伯が手を挙げた。

 「俺、見ました。でも雨に濡れてずぶ濡れでなんだか具合が悪そうでしたよ。な?」

 「うん」

 佐伯の隣にいた皐月さんが頷いた。

 「でも急ぎでやる仕事があるからって言ってました。終わったらすぐに来るって言ってましたけど……」

 「あ、俺も見ました」

 そう言ったのは新人エンジニアの平井だ。

 「確か堀川くんのやってるヘアサロンのサイトにバグがあって、その対応していました」

 「堀川はどこにいる?」

 一樹は尋ねながら辺りを見回す。すると少し離れた席でこちらもやはり同じように女の子と楽しそうに飲み食いしている。一樹は堀川のいる席へと歩いた。

 「如月さんはどうしたんだ?」

 「えっ、如月さんですか?まだ来てないですか?」

 堀川は突然やって来た一樹に少し驚いたように目を瞬くと、辺りを見回した。
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