キミと桜を両手に持つ

 「ヘアサロンのバグの対応をしてると聞いた。如月さんが対応している時になぜここにいる?そもそも堀川、お前の仕事じゃないのか?お前がここで飲み食いしてる時に何故ディレクターがオフィスでバグ出ししてるんだ?」

 「そ、それは如月さんが自分で対応するからって言ったんです!」

 堀川は一樹の言葉に顔を赤くしながら反論した。

 「俺、歓迎会が終わったらオフィスに戻って修正するって言ったんですよ。でもこれくらいなら自分で対応できるから先に歓迎会に行ってくれって如月さんが言ったんです」

 「ヘアサロンの件って確か今クライアントに確認作業してもらってるよな。バグがあるなら急いで対応しないでどうする?信用問題だぞ」

 「そ、それはわかってます。でも、如月さんはディレクターの前はずっとフロントエンドエンジニアやってて、きっと俺よりもコードが書けます。その彼女に自分一人でできるからって言われたらそれに従うしかないじゃないですか」

 堀川は更にムキになって言い訳をする。

 「だいたい彼女、なんでもかんでも自分でやりたがる完璧主義なんですよ。どうせ今日の飲み会だって酒飲んだりするのが好きじゃないから、来る気がなくてオフィスで仕事してるだけだと思いますよ」

 「……お前は本当にそんな事思ってるのか」

 一樹は何かを殴りたい衝動をこらえると、さっと踵を返した。

 「一樹さん、あの、わたし……」

 突然後ろから話しかけられて振り返ると、高橋さんが自分の後をくっついて来ているのに気付いて目を瞬いた。

 「ああ、高橋さんはここでゆっくりしてください。俺はこれから社に戻るので」 
 
 一樹はそう言い残すと急いでオフィスへと向かった。

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