キミと桜を両手に持つ
一樹は自分のデスクに向かうと、早速Nコーポレーションの件に取り掛かった。
まず、これからは担当者は凛桜ではなく自分になることをメールで伝える。それと同時にNコーポレーションの企画書やデザインに目を通し、予算の見直しをしていく。結局一度OKが出た企画とデザインをはじめからやり直させているのでそれに対する追加請求や吉岡部長の要望を全て受け入れた時の新しい予算案をどんどん作成していく。
その作業をしながら、今度は顧客先に常駐させているエンジニアと堀川を入れ替える事を考える。堀川はこの会社では勤続年数が長い方だが、なぜか仕事があまりできない。
ネットアーチは外資系の会社という事と社長の意向もあり、典型的な日本の会社に比べると働く環境がとても自由でのびのびとした社風がある。デザイナーがくつろいで良い発想が出来るように、または社員がストレスを発散できるようにとリフレッシュルームや休憩室にはとても充実した設備も整っている。でもそれを逆手にとって怠けてしまう者もいる。堀川がその典型的な例だ。
現在保守運営している顧客のいくつかに堀川でも十分務まる常駐先がある。常駐だと客先に出勤してそこの就業規則や社内ルールに従うことになるので堀川も今のようにサボることができない。それに新しい環境で人間関係にも気を使いながら働かなければならない。堀川にはきっといい薬になるだろう。
そんな作業をしばらくしていると、凛桜が目を覚ました。
「と、藤堂さん!?なにやってるんですか?」
と一樹の方へ歩いてくる。
「あの、歓迎会は?もう終わったんですか…?」
一樹は仕上がった書類を保存すると、視線を目の前に立つ凛桜に向けた。彼女は顔色が真っ青で目の下には大きなクマができている。そんな彼女を見て更に眉根を寄せた。