キミと桜を両手に持つ
「さぁ?まだやってるんじゃないか?俺は7時半過ぎに出たから知らない」
「ど、どうして……?」
「凛桜がいないと意味がないと言っただろう?」
そう言った途端、彼女の目から一筋涙がこぼれた。一樹は立ち上がるとゆっくりとデスクをまわり、凛桜の前に立った。
「……どうした?」
彼女の疲れ切った顔を両手で包み込むと、親指で涙を拭った。
凛桜は皆が思っているほど強いわけじゃない。皆が思うほど一人でも平気なわけでもない。彼女はただ一生懸命頑張っているごく普通の女の子だ。
そんな彼女を傷つける奴は誰だろうと許さない。これからは自分が守る。自分だけは彼女を裏切らない。絶対に彼女を一人にはしない──… あの夜一樹はそう心に誓った。
目の前で安らかな寝息を立てて寝ている凛桜を見て微笑むと、テレビとそして照明を消して腕の中にそっと抱いた。すると凛桜はすりっと一樹にすり寄ってきた。そんな彼女に我慢ができなくて一樹はそっと唇を重ねた。
本当は今すぐにでも彼女を自分のものにしたい。でも凛桜は失恋したばかりで傷が癒えるまでは時間をあげたい。
もし一樹が彼女を抱く時は、寂しかったからだとか、雰囲気に流されたとか、酒に酔った勢いなどの理由であって欲しくない。
彼女が自分の事を好きになってくれるまでどれだけ時間がかかってもそれまで待ちたい。彼女と想いが通じ合ってそして彼女が自分のことを本当に欲しいと思った時に初めて彼女と愛し合いたい。
「凛桜、好きだよ」
一樹は腕の中で眠る彼女にそう囁いた。