キミと桜を両手に持つ
episode09

 「凛桜、行こうか」
 「はい」

 藤堂さんと二人でマンションの地下までエレーベーターで降りると、彼の車が置いてある駐車場へと向かった。

 蒸し暑い日曜日の午後、私が風邪を引いたりでなかなか行けなかった家具を一緒に買いに行くことになった。

 コツコツと静かな駐車場を歩いていくと、藤堂さんは黒のSUVの前に止まった。

 「助手席に乗って」

 彼がドアを開けて私に片手を差し出す。ふふっと口元に笑みを浮かべながら彼の手を取った。彼は本当にレディーファースト。いつもこういうマナーが完璧だなと思う。

 運転席に乗り込んだ彼はナビに住所を入れると、ゆっくりと車を発進させた。助手席に座りながら彼の運転する姿を盗み見る。

 あの日彼にキスをされてから数週間が経つけど、そんな事があったのかと疑いたくなるほど彼は全くのいつも通り。私もあの日は熱があって頭もぼーっとしていたから夢でも見たのではないかと疑ってしまう。

 「何?どうかした?」

 急に彼がふっと笑って私をチラリと見た。彼の横顔をまじまじと見ていた事に気付いて慌てて前を向いた。

 「い、いいえ。なんでもないです」

 笑って誤魔化すと、彼の車の中を何気なく見渡した。SUVはラグジュアリーな内装とゆったりとした室内になっていてフロントのタッチパネルディスプレイも大きくてなにか色々な機能がついてる。私は車を運転しないしあまり興味もないのではっきりとはよくわからないけど多分有名な高級車ブランドの車。

 いつも思うんだけど、藤堂さんってなんかお金持ち……?あのマンションにしてもこの車にしてもだけど、どうやって支払いしてるんだろう……?
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