キミと桜を両手に持つ
ネットアーチは外資系IT企業なのでお給料は他の会社と比べるとかなりいい。特に藤堂さんみたいなプロデューサーならそれなりにいいお給料がもらえていると思う。
それでもこの車を、特にあのマンションをローンを組んだとしてもそう簡単に買えるようなお給料だとは思えない。かと言って散財するタイプには全く見えない。もしかしてお金持ちのご子息とか…?
「あの、藤堂さんのご家族って、その……私が藤堂さんの家に同居することに反対というか嫌な思いとかされてないですか?」
急に今になって先祖代々から続いている事業を営んでいるという彼の家族のことが心配になってきた。藤堂さんはきっと由緒正しいしっかりした家の出身なんだろうと思う。そんな息子の家に婚約者でもない女が同居しているなんて、一体なんと思われているんだろう……。
藤堂さんはクククッと笑うとチラリと私を面白そうに見た。
「俺も34のいい大人だから両親は俺が誰と暮らそうが気にしないと思うよ。むしろ喜んでるだろうな。まぁ凛桜が未成年とかなら話は別だと思うけど……」
と言った途端、急に真顔になった。
「君のご両親には一言なにか挨拶をするべきだな。大切なお嬢さんを預かってるんだから」
「お、お嬢さん!? あ、あの、それは全然気にしなくて大丈夫です。実は……」
「いや、そういうわけにはいかない。もし君となにかあった時、実は今まで一緒に同居してましたなんてバレた方が申しわけが立たない」
彼はこういう人だ。真面目でこういう事にはとてもきっちりしている人。真剣な顔で話す彼を見て小さく笑みを浮かべた。