キミと桜を両手に持つ
「あの、以前わたしが母子家庭で育ったって話をしたかと思うんですけど、両親は私がまだ幼い時に離婚して父は今何処に住んでいるのかもわかりません。ずっと母と一緒に暮らしてたんですけど、その母も私が二十歳の時に乳癌で亡くなりました。だから私の両親の心配はしなくても大丈夫ですよ」
すると突然彼が腕を伸ばして私の手を握りしめた。
「……そうか。大変だったんだな……」
彼は前を向いて運転しているので表情はよく見えない。でも私の手を優しく握りしめてくれる彼の手からは思いやりが伝わってくる。
藤堂さんはいつもあまり多くの事は言わない。そして根掘り葉掘りといろいろと聞いてもこない。ただ私のプライバシーを尊重してそっと悲しみに寄り添ってくれる。
その心遣いがとても嬉しくて繋がった手を見ていると藤堂さんがぎゅっと手を握り返した。ふと顔を上げると道路から一瞬目を離した彼が優しく私を見つめた。
藤堂さんって口下手かもしれないけど本当に優しい人だな……
そんな事を考えていると、やがて車は都心から少し離れた目的の家具屋へと到着した。
✿✿✿
「わぁ、すごく素敵な家具屋さん!」
「モチヅキ家具」と書かれた店内に入ると、モダンなものからすこしアンティーク調の家具まで様々な家具がディスプレイされている。店内のあちこちには観葉植物や生け花が沢山飾ってあって、それに照明やその家具のシーンに合わせたディスプレイの仕方も綺麗で、とても素敵なショールームになっている。
思ったよりも家族連れや年配の夫婦などで賑わっていて、私達もその中をゆっくりと歩きながら家具を見てまわる。
一目見て海外などで大量生産されたものではなく、国内の職人さんによって生産された上質な家具だとわかる。