キミと桜を両手に持つ

 「お、奥様!?い、いや……あの、私は……」

 確かにこの店内にいるのは家族連れやご夫婦が多いので間違えられても仕方がないのかもしれない。でも慌てふためいて否定しようとすると藤堂さんが私の肩を引き寄せた。
 
 「では、妻のことよろしくお願いします」

 悪戯っぽい目をしてクスリと笑うと額にキスを落とした。

 「なっ……!?ちょ、ちょっと……待って」

 手のひらを額にあてて真っ赤になっている私を見て望月さんの奥さんはニコリと微笑んだ。

 「今日はどんな家具をお探しですか?」

 「寝室に置くドレッサーとチェストです」

 「ではこちらにどうぞ」

 彼女は寝室の家具がディスプレイされているセクションへと私を案内した。

 「藤堂さんには本当に感謝してもしきれないんです。五年前うちは経営難でこの店を閉じる覚悟をしていたので」

 彼女はそうポツリと呟くと、藤堂さんにサイトを作ってもらった経緯を話してくれた。

 「最近は安くてデザイン性のいい家具がたくさん市場に出回っていて私たちのような小さな家具屋は生き残るのが大変です。お金をはらって広告を出してもその時はよくてもあまり長期では効果がありません。それでどうしたら良いか考えていた時知人がネットアーチを紹介してくれて、そのとき営業の方と一緒に来られたのが藤堂さんでした」

 藤堂さんは望月さん夫婦やスタッフからいろいろとヒアリングした後、わざわざご主人の実家がある工場まで出かけて行ったらしい。その後サイトの構成案やデザインを考えた後、オンラインストアも作って全国に売り出してみてはどうかと提案した。
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