キミと桜を両手に持つ
望月さんの奥さんはそう言って微笑むと、
「寝室に置く家具はこちらになります。ドレッサーとチェストはあそこですね」
と、家具を指差した。どれも木の温かさと職人さんが丁寧に作ったスタイリッシュで綺麗なものばかり。
望月さんの実家の工場で働く女性の中にはもしかするとシングルマザーで母のように頑張って働いている人がいるかもしれない……。そう思うと急にここで家具を買う決心がついた。
「あの、お勧めのドレッサーはどれですか?」
「それだとあそこにあるのが今一番売れてますよ」
そうして望月さんの奥さんと一緒に家具を選んでいると藤堂さんが戻ってきた。
「欲しい家具は見つかった?」
「はい!ここにあるこのチェストと、ドレッサー、それとあそこにある姿見鏡を買おうかなと思います」
「すみません。ではその家具を私の住所へお願いします。支払いはカードで」
藤堂さんが望月さんの奥さんと側に控えていたスタッフにそう言うと、私の代わりに購入手続きを始めた。
「待って!私が払います。私の家具なので」
「俺の家に置く家具だから俺が払うから」
そう言ってスタッフに彼のクレジットカードを渡してしまった。
「で、でも……」
「妻の家具は夫が買うに決まってるだろ」
「ちょっ……!も、もう、藤堂さん!」
未だ夫婦のふりをして私をからかって遊んでいる彼の腕を軽く叩くと、藤堂さんはクツクツと笑った。
「でも、本当にいいんですか?」
「初めからそのつもりで来たんだ。凛桜が心配することなんて何もないよ」
彼は私の頭をクシャリと撫でた。