キミと桜を両手に持つ
「すごく素敵なお店ですね。それに望月さんご夫妻もスタッフの方もすごく親切で。藤堂さんが作ったウェブサイトもお店の雰囲気や家具の良さが伝わるとてもいいサイトでしたよ」
私と藤堂さんはコツコツと駐車場を歩いて車へと向かう。
「ありがとう。俺もここの家具を見た時、こんないい物が埋もれて誰も知らないなんてもったいないと思ったんだ」
「望月店長の奥さんが、藤堂さんがわざわざ直接工場まで足を運んだと聞きました」
「望月店長の実家の工場はあの小さな町では100年以上も続いている有名なところで、そこで働いて生計を立てて暮らしている人がたくさんいるんだ。せっかくいい職人がいていい物を作っているのに今潰れてしまったらもったいないと思った。だからどうしても作りたかった。確かに少ない予算でいろいろ考えながらするのは大変だったけど、でもそれはそれで面白いチャレンジで楽しかったし、結果的にサイトは成功した」
私は先ほどもらった紙袋の中にあるランプを見た。藤堂さんは工場でこのランプや今日私が買った家具を作っている職人や働いている女性達を見たはず。きっとその人達の為にもなんとしてでもこのサイトを作って成功させたいと思ったに違いない。
「……このサイト、藤堂さんが直接プログラムを書かれたんですね」
サイトを見た時、望月さんの話している感じの予算だとかなりきついプロジェクトだったのではないかと思った。でも手抜きをしているとは思えないほどの完成度。
低予算でサイトを仕上げるには、どこかでコストカットしなければならない。だからプログラマーを使わず藤堂さんが直接コードを書いたのではないかと思った。彼は今でこそプロデューサーをして一線から退いているけど、元々はエンジニア。それにその知識も豊富なのでかなりの腕前なはず。