キミと桜を両手に持つ

 「……そうだな。俺が書いた部分もある。でもデザインは知り合いで安く請け負ってくれるいいデザイナーがいてその人に頼んだし、オンラインショップは既にあるネットアーチのECサイト用ソフトを使った。まぁ赤字は免れたよ」

 ふっと笑った藤堂さんを見て、なぜか無性に彼を抱きしめたくなった。赤字は免れたと言えども、彼が無償でプログラムを書いたようなもの。

 彼はいつもこういう人だ。優しくて、そして静かに困っている人をそっと支えてくれる。家でもそして会社でも一緒なのに飽きるどころか彼のことを知れば知るほど好きになる。

 「藤堂さん、あのウェブサイト今まで見たどのサイトよりも素敵です。私もあんなサイトが作れるようにこれからも頑張りますね」

 私が笑顔を向けると、藤堂さんは微笑んで私の頭を撫でた。

 「ん、頑張ろうな」

 そうして駐車場を歩いて車へと向かって歩いて行くと、通りの向かい側で人だかりができているのに気づいた。

 よく見ると大きなテントの下にはケージの中で遊んでいる子犬や成犬が何匹かいて、その周りを人が取り囲むように群がっている。

 「藤堂さん、見て!犬が沢山いる!」

 何か強い引力にでも引き寄せられるように人集りの方へ歩いていく。テントの下にはバナーがあって「保護犬の里親を探しています 〜 Paw Rescuers」と書いてある。どうやら動物保護団体が保護犬の里親を探す譲渡会をしているようだ。

 「かわいい〜!」

 ケージの中で遊んでいる子犬を見て思わず声をあげた。手を差し出すと黒い毛並みの子犬が尻尾を振って私の所へやってきた。

 「この子は生後七ヶ月なんですよ。里親になるご興味はありますか?」
 
 顔を上げると優しそうな50代前半くらいの女性が立っていた。
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