猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
「俺はこれからも、冬華のことを愛し――」
そこで……ぷつりと声が途切れる。
何の前触れもなく――そして。
「……桐谷、ごめん。安東はもう……」
耳朶に今井くんの声を聞いた時、目の前にはもう幼なじみの大好きな男の子の姿はなかった。
夢のように消えた奇跡の幻影。
形に残ったのは、ロスタイムが終わったという事実。
でも、わたしの耳を、甘い声がくすぐったことが忘れられない。
「うあ、あああっ……。渚くん、どこにも行かないって……」
今、この瞬間を生きているのは今井くん。
渚くんは、冬の知らせとともに、わたしを置いて逝ってしまったんだ。
わたしの瞳から、我慢していたものがどんどん溢れていく。
最愛の人は、この世界のどこにももういない。
どれだけ強がっても、隣に渚くんがいた、当たり前の世界にすぐにさよならなんてできるはずもない。
彼のいない明日なんて、来なかったらいいのに。
もっとずっと、一緒にいたかった。
そう思っても、大好きなひとはもういない。
それでも、温かな記憶だけは胸のうちにしっかりと宿っている。
きっと、この恋はこの先もずっと忘れられないだろう。
どんな季節にも君がいたから。
愛しさでいっぱいの……かけがえのないわたしの初恋。
夢の時間はあっという間だ。
だけど、奇跡を信じる限り……諦めない限り、続いていくのかもしれない。