猫は、その恋に奇跡を全振りしたい


ホームルームを終えた放課後。
ぬるま湯のような秋の兆し。
学校の校庭に咲く花が、風に吹かれて踊るように空に舞う中。
クラスのみんなは、そわそわと落ち着かない様子だった。
なにしろ、死んだはずの渚くんが一日中、一緒にいたからだ。
休み時間、クラスの男の子たちが、彼と楽しそうに話していたけど。
わたしはなかなかタイミングが合わず、まだ、話せていない。
渚くんのクロム憑きになった今井くん。
彼と何を話せばいいんだろう。

……分からない。

それなのに、気がつくと、彼の背中ばかり、探してしまう。
とにかく話しかけてみようと思い立った時、わたしの席の前に誰かが立っていることに気づいた。

「あ……」

その人物を見て、わたしは驚きが隠せなかった。

「冬華、今から猫巡り部に行くんだろ? 一緒に行こうぜ」

その優しい声は、甘酸っぱい思いに浸るには大きすぎて、幻聴と呼ぶには愛しさが込められ過ぎていた。

――ほんとに困る。

その姿でその声で、呼びかけられたら、まるで本物の渚くんがここにいるみたいだから。
 
「なぎ……今井くん」
「いつもみたいに『渚くん』でいいよ」

温かな眼差し。
この瞳に映る彼の顔が、渚くんのように感じられて。
声が仕草があまりにも似すぎていて、わたしは涙がこみ上げてきそうになった。

「……うん。渚くん……ほんとに渚くんだ……。会いたかった。ずっと会いたかった!」
「分かった。分かったってば」

はしゃぐわたしの姿を見て、渚くんが楽しそうに笑う。

「渚くんが転校してくるなんて、今日はめちゃくちゃいい日かも」
「夢の中でも、現実でも、冬華は冬華だな」

想定外の答えに、不覚にも絶句する。
わたしは困惑しながらも尋ねた。

「夢? じゃあ、あなたが……」
「ああ。夢の中で冬華と会っていたのは、俺だ」

思いもよらない事態に、鼓動が一気に速まる。

「ほんとに、会いにきてくれたんだ」
「……夢で約束したからな」

わたしは唇をかむ。
夢の向こうに広がる海。
弾ける波の音。
夜風の肌触り。
この胸を焦がすのは、いつも渚くんの色だった。
感慨にふけっていると、渚くんはわたしをまじまじと見つめながら、藪から棒につぶやいた。

「だけど、どうして俺たち、全く同じ夢を見ていたんだろうな」
「ねえ、渚くん。もし、その現象がわたしの力のせいだと言ったら信じる?」
「えっ?」

渚くんは呆気に取られる。
まるでいたずらの種明かしをするかのように、わたしは続けた。
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