猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
*
ホームルームを終えた放課後。
ぬるま湯のような秋の兆し。
学校の校庭に咲く花が、風に吹かれて踊るように空に舞う中。
クラスのみんなは、そわそわと落ち着かない様子だった。
なにしろ、死んだはずの渚くんが一日中、一緒にいたからだ。
休み時間、クラスの男の子たちが、彼と楽しそうに話していたけど。
わたしはなかなかタイミングが合わず、まだ、話せていない。
渚くんのクロム憑きになった今井くん。
彼と何を話せばいいんだろう。
……分からない。
それなのに、気がつくと、彼の背中ばかり、探してしまう。
とにかく話しかけてみようと思い立った時、わたしの席の前に誰かが立っていることに気づいた。
「あ……」
その人物を見て、わたしは驚きが隠せなかった。
「冬華、今から猫巡り部に行くんだろ? 一緒に行こうぜ」
その優しい声は、甘酸っぱい思いに浸るには大きすぎて、幻聴と呼ぶには愛しさが込められ過ぎていた。
――ほんとに困る。
その姿でその声で、呼びかけられたら、まるで本物の渚くんがここにいるみたいだから。
「なぎ……今井くん」
「いつもみたいに『渚くん』でいいよ」
温かな眼差し。
この瞳に映る彼の顔が、渚くんのように感じられて。
声が仕草があまりにも似すぎていて、わたしは涙がこみ上げてきそうになった。
「……うん。渚くん……ほんとに渚くんだ……。会いたかった。ずっと会いたかった!」
「分かった。分かったってば」
はしゃぐわたしの姿を見て、渚くんが楽しそうに笑う。
「渚くんが転校してくるなんて、今日はめちゃくちゃいい日かも」
「夢の中でも、現実でも、冬華は冬華だな」
想定外の答えに、不覚にも絶句する。
わたしは困惑しながらも尋ねた。
「夢? じゃあ、あなたが……」
「ああ。夢の中で冬華と会っていたのは、俺だ」
思いもよらない事態に、鼓動が一気に速まる。
「ほんとに、会いにきてくれたんだ」
「……夢で約束したからな」
わたしは唇をかむ。
夢の向こうに広がる海。
弾ける波の音。
夜風の肌触り。
この胸を焦がすのは、いつも渚くんの色だった。
感慨にふけっていると、渚くんはわたしをまじまじと見つめながら、藪から棒につぶやいた。
「だけど、どうして俺たち、全く同じ夢を見ていたんだろうな」
「ねえ、渚くん。もし、その現象がわたしの力のせいだと言ったら信じる?」
「えっ?」
渚くんは呆気に取られる。
まるでいたずらの種明かしをするかのように、わたしは続けた。
ホームルームを終えた放課後。
ぬるま湯のような秋の兆し。
学校の校庭に咲く花が、風に吹かれて踊るように空に舞う中。
クラスのみんなは、そわそわと落ち着かない様子だった。
なにしろ、死んだはずの渚くんが一日中、一緒にいたからだ。
休み時間、クラスの男の子たちが、彼と楽しそうに話していたけど。
わたしはなかなかタイミングが合わず、まだ、話せていない。
渚くんのクロム憑きになった今井くん。
彼と何を話せばいいんだろう。
……分からない。
それなのに、気がつくと、彼の背中ばかり、探してしまう。
とにかく話しかけてみようと思い立った時、わたしの席の前に誰かが立っていることに気づいた。
「あ……」
その人物を見て、わたしは驚きが隠せなかった。
「冬華、今から猫巡り部に行くんだろ? 一緒に行こうぜ」
その優しい声は、甘酸っぱい思いに浸るには大きすぎて、幻聴と呼ぶには愛しさが込められ過ぎていた。
――ほんとに困る。
その姿でその声で、呼びかけられたら、まるで本物の渚くんがここにいるみたいだから。
「なぎ……今井くん」
「いつもみたいに『渚くん』でいいよ」
温かな眼差し。
この瞳に映る彼の顔が、渚くんのように感じられて。
声が仕草があまりにも似すぎていて、わたしは涙がこみ上げてきそうになった。
「……うん。渚くん……ほんとに渚くんだ……。会いたかった。ずっと会いたかった!」
「分かった。分かったってば」
はしゃぐわたしの姿を見て、渚くんが楽しそうに笑う。
「渚くんが転校してくるなんて、今日はめちゃくちゃいい日かも」
「夢の中でも、現実でも、冬華は冬華だな」
想定外の答えに、不覚にも絶句する。
わたしは困惑しながらも尋ねた。
「夢? じゃあ、あなたが……」
「ああ。夢の中で冬華と会っていたのは、俺だ」
思いもよらない事態に、鼓動が一気に速まる。
「ほんとに、会いにきてくれたんだ」
「……夢で約束したからな」
わたしは唇をかむ。
夢の向こうに広がる海。
弾ける波の音。
夜風の肌触り。
この胸を焦がすのは、いつも渚くんの色だった。
感慨にふけっていると、渚くんはわたしをまじまじと見つめながら、藪から棒につぶやいた。
「だけど、どうして俺たち、全く同じ夢を見ていたんだろうな」
「ねえ、渚くん。もし、その現象がわたしの力のせいだと言ったら信じる?」
「えっ?」
渚くんは呆気に取られる。
まるでいたずらの種明かしをするかのように、わたしは続けた。