悪女、チャレンジします!
放課後になり生徒会室に入るとピリピリとして空気が流れていた。
ジロリとみんなの視線が私に向く。
「平井さん、久しぶり」
中央の席に座る諏訪会長が明るい声で私の名前を呼ぶ。
会長の声にひるんだのか、生徒会のメンバーも自分のパソコンに視線を戻す。
図々しくよく生徒会に戻ってこれたよね。
悪女の噂は本当だったんだわ、ふてぶてしい。
幻聴のように私の悪口が聞こえてくる。
誰もそんなこと言ってないのに、心の中ではそう思っているんじゃないかって想像しちゃう。
相変わらず常盤君はまるで私のことは無視しているし。
「平井さん。この後、ちょっと話せるかな」
生徒会の活動時間が終わると、諏訪会長から呼び出しを受けた。
何だろう。あんまりいい予感はしないな。
「ごめんね、早く帰りたいしょ」
そう笑う諏訪会長の声が二人だけの生徒会室によく響く。
「色々大変なことがあったと思う。だけどこれからの生徒会には平井さんが必要だ。そのことはみんなもわかっているよ」
諏訪会長はそう言って励ましてくれるけど。
他の人が本当にそう思っているかどうかはわからないよ。
もしかしたら私なんかいなくなっちゃえって思ってるかも……。
「本音を言うとね、僕は平井さんが次の生徒会長でもいいって思ってたんだ」
「私がですか?」
反射的に大きな声が出る。
そんなこと言われるなんて思ってもいなかった。
「平井さんは周りのことをよく見ている。それにこの学校のためにどうすればいいかを考えて行動できる人だ」
「そんなことないですよ」
私はそんな立派な人じゃない。
生徒会には好きな人の近くにいたいから入っただけ。
広報だって生徒会のためじゃなくて常盤君を勝たせたいからだ。
「私は自分勝手な悪女です」
「悪女でもいいじゃないか」
諏訪会長が言葉を続ける。
「平井さんは自分の意志がちゃんとある。歴史上で悪女と言われる人たちはみんな強い意志を持っていた。だから歴史に名を残すんだ」
諏訪会長の言葉には不思議と説得力がある。
「自分の意志を強く持っている人は困難を乗り越える力がある。僕には平井さんがそう見えるんだ」
諏訪会長から私がそんな風に見えているなんて知らなかった。
「自分の意志を信じてこれからも頑張って」
「ありがとうございました」
まだ仕事が残っている諏訪会長をおいて生徒会室を出ると、ドアのそばで一色君が待っていた。
「僕のせいで色々ごめんね」
「一色君が悪いわけじゃないよ」
悪いのは全部常盤君。
あんなひどい記事を書いて私たちを困らせた常盤君が悪い。
「まだ舞奈ちゃんから答えを聞けてなかったと思ってさ」
キラキラした瞳で見つめられてドキッとする。
一色君はいつも真っ直ぐで、明るい。
きっと一色君が生徒会長になればすごくいい生徒会になる。
それはわかっている。
わかっているのに、心の中にはまだ常盤君がいる。
どうしてあの記事を書いたのか直接常盤君から聞きたい。
それを聞くまで私の中で答えは出せない。
「あの、ごめんなさい。まだ答えが出てなくて」
少しだけ寂しそうに一色君が笑った。
一色君でもそういう顔することあるんだ。
「まるで舞奈ちゃんに振られたみたいだね」
「はえっ?」
びっくりして変な声が出ちゃう。
一色君、何言っているの?
「ちょっと急に変なこと言わないでよ。誰かに聞かれたらまた誤解されちゃうよ」
「もし誤解されたら、今度は僕がちゃんと守るよ」
どんどん話が変な方向に進んでいるよ。
ちょっと、どうしちゃったの?
一色君が私の目を真っ直ぐ見てきた。
「僕はね、舞奈ちゃんが好きなんだ」
信じられない。
今、一色君に告白された?
心臓がバクバク鳴る。
顔の温度が急上昇して真っ赤になっているのが見なくてもわかる。
地味で目立たない私が学校一の人気者から告白されるなんて。
「嘘……」
「本当だよ。舞奈ちゃんが生徒会としても大切な人だってこともある。でもそんなこと関係なしに舞奈ちゃんにはそばにいてほしいんだ」
これはやばい。
一色君の眩しい笑顔で言われたら、破壊力抜群だ。
このまま一色君と付き合ってもいいのかな……。
「どうしてあんたなのよ!」
叫び声が聞こえて振り返ると、桃井さんが血走った目を私に向けていた。
胸がぎゅっと何かに掴まれたように苦しくなる。
いつからそこにいたんだろう。
もしかして、今の全部聞かれてたのかな?
「どうして特別枠のあんたが一色君に選ばれるのよ」
血相を変えた桃井さんがずんずんと近づいてくる。
何をしてもおかしくないような禍々しいオーラを放っている。
「桃井さん、やめるんだ」
「一色君まで。このこと、学校のみんなに晒してやるんだから!」
桃井さんが不敵に笑う。
そんなことされたら次こそ私はもう終わりだ。
「桃井、こんなところにいたのか」
どこからか声が聞こえると、慌てた顔をして桃井さんはこの場からいなくなった。
階段を駆け降りる音が聞こえてくる。
常盤君が姿を現した。
どうして常盤君が桃井さんを追っているんだろう?
それ以外にも常盤君には聞きたいことが山ほどある。
それなのに常盤君は私と一色君を素早く見比べると、ちっと舌打ちしてすぐに桃井さんの後を追いかけた。
「あの、ごめんなさい。一色君に迷惑かけちゃうかな」
「そんなの気にしないで。僕が舞奈ちゃんを好きになっただけだから。舞奈ちゃんのことは僕が必ず守る。だから真剣に考えてほしい」
そう言って一色君は帰っていった。
まだ頭の中がぼんやりとする。
自分でもどうしたらいいかわからないよ……。
平井さんには自分の意志がしっかりある。
諏訪会長の言葉を頭の中で何度も反復する。
私にはそんな意志なんて無いよ……。
動きたいのに足が動かず、呆然と立ちすくんでいた。
ジロリとみんなの視線が私に向く。
「平井さん、久しぶり」
中央の席に座る諏訪会長が明るい声で私の名前を呼ぶ。
会長の声にひるんだのか、生徒会のメンバーも自分のパソコンに視線を戻す。
図々しくよく生徒会に戻ってこれたよね。
悪女の噂は本当だったんだわ、ふてぶてしい。
幻聴のように私の悪口が聞こえてくる。
誰もそんなこと言ってないのに、心の中ではそう思っているんじゃないかって想像しちゃう。
相変わらず常盤君はまるで私のことは無視しているし。
「平井さん。この後、ちょっと話せるかな」
生徒会の活動時間が終わると、諏訪会長から呼び出しを受けた。
何だろう。あんまりいい予感はしないな。
「ごめんね、早く帰りたいしょ」
そう笑う諏訪会長の声が二人だけの生徒会室によく響く。
「色々大変なことがあったと思う。だけどこれからの生徒会には平井さんが必要だ。そのことはみんなもわかっているよ」
諏訪会長はそう言って励ましてくれるけど。
他の人が本当にそう思っているかどうかはわからないよ。
もしかしたら私なんかいなくなっちゃえって思ってるかも……。
「本音を言うとね、僕は平井さんが次の生徒会長でもいいって思ってたんだ」
「私がですか?」
反射的に大きな声が出る。
そんなこと言われるなんて思ってもいなかった。
「平井さんは周りのことをよく見ている。それにこの学校のためにどうすればいいかを考えて行動できる人だ」
「そんなことないですよ」
私はそんな立派な人じゃない。
生徒会には好きな人の近くにいたいから入っただけ。
広報だって生徒会のためじゃなくて常盤君を勝たせたいからだ。
「私は自分勝手な悪女です」
「悪女でもいいじゃないか」
諏訪会長が言葉を続ける。
「平井さんは自分の意志がちゃんとある。歴史上で悪女と言われる人たちはみんな強い意志を持っていた。だから歴史に名を残すんだ」
諏訪会長の言葉には不思議と説得力がある。
「自分の意志を強く持っている人は困難を乗り越える力がある。僕には平井さんがそう見えるんだ」
諏訪会長から私がそんな風に見えているなんて知らなかった。
「自分の意志を信じてこれからも頑張って」
「ありがとうございました」
まだ仕事が残っている諏訪会長をおいて生徒会室を出ると、ドアのそばで一色君が待っていた。
「僕のせいで色々ごめんね」
「一色君が悪いわけじゃないよ」
悪いのは全部常盤君。
あんなひどい記事を書いて私たちを困らせた常盤君が悪い。
「まだ舞奈ちゃんから答えを聞けてなかったと思ってさ」
キラキラした瞳で見つめられてドキッとする。
一色君はいつも真っ直ぐで、明るい。
きっと一色君が生徒会長になればすごくいい生徒会になる。
それはわかっている。
わかっているのに、心の中にはまだ常盤君がいる。
どうしてあの記事を書いたのか直接常盤君から聞きたい。
それを聞くまで私の中で答えは出せない。
「あの、ごめんなさい。まだ答えが出てなくて」
少しだけ寂しそうに一色君が笑った。
一色君でもそういう顔することあるんだ。
「まるで舞奈ちゃんに振られたみたいだね」
「はえっ?」
びっくりして変な声が出ちゃう。
一色君、何言っているの?
「ちょっと急に変なこと言わないでよ。誰かに聞かれたらまた誤解されちゃうよ」
「もし誤解されたら、今度は僕がちゃんと守るよ」
どんどん話が変な方向に進んでいるよ。
ちょっと、どうしちゃったの?
一色君が私の目を真っ直ぐ見てきた。
「僕はね、舞奈ちゃんが好きなんだ」
信じられない。
今、一色君に告白された?
心臓がバクバク鳴る。
顔の温度が急上昇して真っ赤になっているのが見なくてもわかる。
地味で目立たない私が学校一の人気者から告白されるなんて。
「嘘……」
「本当だよ。舞奈ちゃんが生徒会としても大切な人だってこともある。でもそんなこと関係なしに舞奈ちゃんにはそばにいてほしいんだ」
これはやばい。
一色君の眩しい笑顔で言われたら、破壊力抜群だ。
このまま一色君と付き合ってもいいのかな……。
「どうしてあんたなのよ!」
叫び声が聞こえて振り返ると、桃井さんが血走った目を私に向けていた。
胸がぎゅっと何かに掴まれたように苦しくなる。
いつからそこにいたんだろう。
もしかして、今の全部聞かれてたのかな?
「どうして特別枠のあんたが一色君に選ばれるのよ」
血相を変えた桃井さんがずんずんと近づいてくる。
何をしてもおかしくないような禍々しいオーラを放っている。
「桃井さん、やめるんだ」
「一色君まで。このこと、学校のみんなに晒してやるんだから!」
桃井さんが不敵に笑う。
そんなことされたら次こそ私はもう終わりだ。
「桃井、こんなところにいたのか」
どこからか声が聞こえると、慌てた顔をして桃井さんはこの場からいなくなった。
階段を駆け降りる音が聞こえてくる。
常盤君が姿を現した。
どうして常盤君が桃井さんを追っているんだろう?
それ以外にも常盤君には聞きたいことが山ほどある。
それなのに常盤君は私と一色君を素早く見比べると、ちっと舌打ちしてすぐに桃井さんの後を追いかけた。
「あの、ごめんなさい。一色君に迷惑かけちゃうかな」
「そんなの気にしないで。僕が舞奈ちゃんを好きになっただけだから。舞奈ちゃんのことは僕が必ず守る。だから真剣に考えてほしい」
そう言って一色君は帰っていった。
まだ頭の中がぼんやりとする。
自分でもどうしたらいいかわからないよ……。
平井さんには自分の意志がしっかりある。
諏訪会長の言葉を頭の中で何度も反復する。
私にはそんな意志なんて無いよ……。
動きたいのに足が動かず、呆然と立ちすくんでいた。