隠れる夜の月
彼女の目が見開かれ、戸惑いで身をこわばらせた。
けれど、逃げようとはしない――驚きでとっさに逃げられなかったのかもしれないが。
こわばった体が、次第に、拓己の腕の先で力を抜いていった。
唇を離すと、三花は当然ながら、言葉を失っていた。
かすかに開けた口を震わせ、目を潤ませてこちらを見上げている。
「……せん、ぱい……?」
呆然とした声。
それは、拓己への問いかけであり、何かを祈るような響きも伴っていた。
「いきなりごめん。……でも」
たった三文字。それが、胸の中に詰まったまま言葉にならない。
いつしか、三花の腕をつかんだままの拓己の手も、小刻みに震えていた。
想いを素直に伝えることが、不安で、怖くて仕方がない。
だからこそ――今はこんなふうにしか、言葉にできなかった。
「このまま、今夜は一緒にいてほしい」
彼女の目を見つめながら、ゆっくりと声に出す。せめて表情で、目で、決意が伝わってくれれば。そんな思いとともに。
沈黙が下り、夜が深くなっていく空気の中に、交差点を行き交う人の声、信号のメロディ、車の走行音が交錯する。
やがて。
――わずかに目を伏せた三花が、こくりと小さく頷いた。